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夏の日の帰り道
【青春 恋愛小説】

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夏の日の帰り道-3

*――*
 町唯一の本屋だけあって、五十鈴書店の店内は広い。
 当然クーラーはがんがん回っているので、外と中では天国と地獄だ。
「それで? いったいなにが目的なわけ?」
「うふふ、えっとねぇ……」
 実のところ、なんで呼び出されたのかはもう忘れてた。なんかの雑誌の七十五ページがどうのとかいうのは覚えているけど、そんなことよりも今週号の週刊漫画のほうが気になっているのが本音。
「今日発売なんだ……」
 良太が手に取ったのはもうすぐ七十巻を控える長寿漫画。
「あんたまだそれ読んでるの?」
 昔は私も読んでいたけど、今は立ち読みで済ませている。
 まあ、読んでいるてんでは一緒なんだけどね。
「俺もやめたいんだけど、なんか気になるんだよなぁ……」
 そういって良太は財布を取り出し、にらめっこを始める。そして私に手を合わせるもんだから、ここまで送ってくれたお駄賃として、百円を床に落して拾わせた。
「ちょっと、そこ! いちゃいちゃしないの! そんなことよりこっちに来て早くこれを見るの!」
 世間一般で男に百円を拾わせるのもイチャイチャになるとは知らず、なんか居心地が悪くなる。
 けど、良太は気にしない。なんかそれはそれでムカツクな。
「ほらほら、早く早く!」
「んもう、なによ。そんなに見せたいなら買えばいいでしょ? 買えば……」
「あ、そっか!」
 いままで気付いていなかったらしく、彼女はぽんと手を叩くといそいそと財布を取り出す。すると一瞬眉を顰めてから私に手を合わせた。
 なんで私が……とおもいつつ、彼女ともイチャイチャしてあげることにした。

*――*

 ひとまず書店を出た私達は近くのファーストフード店へ行き、件の雑誌を広げる。
 けど、納得できないのは、私とイチャイチャした二人がなぜかセットメニューを堂々と頼んでいること。お金があるならどうして他人の財布をあてにするんだか。
 そう聞いたら、「食べ物は別財布」とごろの悪い言葉で返された。
「で? いったいなんなの、これが……」
「んとね、ここ、ほらここ見て! この子……、可愛いと思わない」
「思わない」
 二人とイチャイチャしたせいで財布がひもじくなった私はシェイクをずずずとすするしかない。
「んもう、ちゃんと見てよ!」
 そんな態度が不真面目だと思ったらしく、彼女は私の眼前にそのページの一こまを近づける。
 そこにはやぼったい恰好をした女の子が駅前のデパートの袋を持っている写真が一枚あるだけ。
 薄茶色のタイトなスカートから見えるふとももは年相応のむっちりしたもの。ピンクのTシャツはうらやましいサイズの胸のせいでちょいと字がよこに伸びていて変。髪形はこれまた一時間かかると思われる変体パーマ。
 がんばっていることは伝わるけれど、なんとなくこの子になら負けない気がする。
 多分良太に聞いても……、あ、でも男っておっぱい大きいほうが好きだろうし、わかんないかも……。
「どう?」
「五分五分かな?」
 私は良太を見ながら応える。
「なにが?」
「ん? こっちのこと」
 そしてまた一啜り。
 ズズズズズズ……。
「可愛いでしょ?」
「普通? っていうか、微妙?」
「おい……、美也子……」
 なんか良太がひじでわき腹つついてくるんですけど、これってセクハラかしら?
「なによ?」
「ここ」
 良太はいらだつ私を差し置いて写真にあるモデルの名前を指差す。


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