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夏の日の帰り道
【青春 恋愛小説】

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夏の日の帰り道-1

『ねぇねぇ! 聞いて聞いて! 美也子ってば! まだ寝てるの!』
 夏休みが始まって一週間が過ぎたある日のこと、自堕落な生活に浸っていた私は、クラスメートの桜井頼子からの電話で起こされた。
「うっさいなぁ……、何? 宿題? 夏休みはまだ始まったばかりでしょ?」
 汗ばむ身体に不快感を覚え、扇風機をオンにする。
 生暖かさと湿気の篭った空気を受けても不快感は拭えない。
『そんなんじゃないわよ! 大ニュース、大ニュース!』
 携帯を首と肩にはさみ、パジャマを脱ぐ。その間も適当に「うん」「へぇ」「はぁ」と気の無い返事を欠かさない。
 一つ前の機種は薄型が売り。でも、この姿勢を維持するのは首が痛くなるから困る。イヤホンマイクを買おうかと思ったけれど、未だに実行していない。
『いい? いまから本屋に行って! そんで、今月号のラブ・ファッショナリーを立ち読みしてきて! えっと、五十七ページね!』
 それだけ言うと、頼子は電話を一方的に切ってしまった。
「なにそれ? ばっかじゃない」
 出かける約束ならともかく、立ち読みの依頼、しかもページまで指定されて……。
 ひとまずあくびをしてから、クローゼットを開ける。
 ブラインドからさす光に、今日は涼しめな青のキャミソールを選ぶ。
 フリルのついていないそれは、露出度のわりに地味なもの。けれど、別に誰かに見せるわけではないと割り切り、着替えた。
 台所で冷たい麦茶を飲み、シリアルにミルクをかけて居間へ行く。
 クーラーをつけて、テレビをつけての寂しい朝食。
 ママは早い時間にパートに出ているので、夏休みはいつもこんな感じだ。
 私は折込チラシも取られていない新聞を開き、まずは天気予報。そしてテレビ欄と四コマを見る。
 そうしている間にブランチは終了。
 テレビでは人生相談が始まっているけど、不倫や浮気なんてまだ私には関係ない。
 それこそ、恋愛すら始まっていないんだし……。

*――*

 通りに並ぶ街路樹からは蝉の声が響く。行き交う人は手に日傘をさし、汗を拭っている。
 私はというと、青いキャミソール姿に日傘というアンバランスな姿。
 ヒラヒラした裾から健康的な生脚を見せているけど、今の流行は色白だから、このチョイスはミスジャッジだ。
 向かう先は本屋さん。頼子に言われたから行くのはメンドイけど、まぁ他に予定も無いしいいかな?
 んでも、そんなに見せたい本があるなら買ってきて見せてくれればいいのに。
「……おーい! 美也子!」
 背後から私を呼ぶ声と自転車のベルの音。聞き覚えのある声は同じクラスの因幡良太。
 良太は水着のバックをカゴに積んでいて、プールの帰りらしくスポーツ刈が濡れて、目もちょっぴり赤かった。
「どこ行くの?」
「どこでもいいでしょ」
 なんでかしらないけど、こいつは私になれなれしく話しかけてくる。
「なんだよ、近いとこなら送ってやるのに」
「別に……」
 いいわよ。
 そういおうとしてやめて、
「そう? 悪いわね。それじゃあ五十鈴書店までお願いできるかしら?」
 私はニッコリ貴婦人スマイルで答えた。
 こんな暑くて日差しの強いなか、えっちらおっちら歩いているのはばかばかしい。それならコイツの荷台に揺られるほうがマシだもの。
「ウイ、ムッシュ」
 良太も恭しくお辞儀をするけど、女の子にムッシュはないっての。


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