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『満月の夜の分かれ道』
【元彼 官能小説】

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『満月の夜の分かれ道』-3

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二人は千代の最寄りの駅で下車し、並んで歩き始めた。

「この辺あんまり変わってないな」

辺りを見回しながら知秀がそう言った。

千代の家に行くにはこの道を左に曲がらなければならない。しかし、千代はふとあることを思い付いて足を止めた。

「ねぇ、久しぶりにあそこ行ってみない?」

多分普段の千代ならこんなことは言わなかっただろう。でも今は酔っ払っているから。少なくとも知秀は千代が酔っ払っていると思っているから…。

千代は自分が大胆になっていることを自覚しながら知秀の手をひいて右へ曲がると、ある場所へ向かった。




「へぇ、まだここ残ってたんだ」

知秀が感嘆の声を上げる。
二人が向かった場所はある小さな廃工場だった。満月の光に照らされたそれは、子供だったら怖くて逃げ出してしまうような雰囲気を醸し出している。

昔お金のなかった千代達はよくここでおしゃべりをしたり、キスをしたり―少し、えっちなことをしたりした。
でもどうしても最後までするのを怖がった千代に知秀は無理をさせなかった。
そうして結局千代と知秀は一度も結ばれないまま、別れてしまった。

二人は半分開いたドアから順番に体を滑り込ませた。

ガランと広いスペースも、天窓から少し差し込む光の加減も、放置されている機械も全部あの頃のままだった。二人は八年前にタイムスリップしてきたような不思議な気持ちを感じていた。

「ほんとに変わってねぇな…」

知秀がそう呟く。昔、野球をやっていた知秀の背中は今も変わらずとても逞しかった。

どんっ!

「ちょ…千代…」

知秀が驚いて声をあげる。
込み上げてくる気持ちを我慢できなくて千代は思わず知秀の背中に抱き着いていた。
知秀が慌てて引き離そうとする。

「お前やっぱり酔ってるな。早く帰るぞ」
「いや…」

千代はさらに強い力でぎゅうっと知秀を抱き締める。

「ね…最後までしようよ」
「え?」

千代の言葉に知秀が固まる。

「あの時できなかったこと…今ならできるよ。今の私なら…」
「千代…何言って…」

千代はそろそろと腕の力を緩めると、知秀の前に立った。

「お願い。知秀と最後までしたい」

戸惑ったような目で千代を見ていた知秀はしばし沈黙した後、ぽつりと言った。


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