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『満月の夜の分かれ道』
【元彼 官能小説】

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『満月の夜の分かれ道』-1

「あの…もしかして、千代?」

会社からの帰り道。家路へ急ぐ人達でいっぱいの駅のホームで電車を待っていた千代は、隣りに立っていた男性に急に自分の名前を呼ばれた。

「?」
「あっやっぱりそうだ!久しぶりだなぁ」

振り向いた千代の顔を正面からみたその男は笑顔になり、嬉しそうにそう言った。
しかし千代は薄くストライプの入ったダークグレーのスーツを着たその男に、見覚えはなかった。

「…どちら様でしょうか?」
「俺のこと忘れた?知秀だよ!」

『知秀』―その名前を聞いた瞬間千代はふわっと過去に引き戻されるような感じがした。

「知秀?うそっ!」
「思い出した?」
「本当に知秀…?」

改めて目の前の男をよく見る。彼にあの頃の面影はほとんどない。

「髪…黒くしたんだ」
「そりゃ社会人だからね。高校生の時みたいな髪型はできないよ」

高校生のころ知秀の髪は明るい茶髪だった。黒髪好きな千代が何度言っても頑として色を変えてくれなかったことを思い出す。

「知秀すごい変わったね。なんかエリートサラリーマンって感じ」
「いや、千代の方こそ変わったよ。髪長くなって大人っぽくなっちゃって。さっきからずーっと見てたんだけど、もし声かけて違ったら…ってドキドキしたよ」

そう言って知秀は前髪に手をやった。その仕草はあの頃と変わっていなかった。千代が大好きだったあの頃の知秀とー。




知秀は高校二年生の春、千代に初めてできた恋人だった。
友達の紹介で知り合い一年ほど付き合ったが、お互い何となく連絡を取らなくなり、その状態に耐えられなくなった千代から別れを切り出した。
学校も違い、家も近くなかった二人は会うこともなくなりそれっきりになっていた。

「折角会ったんだし、夕飯でも一緒にどう?」

千代は知秀の誘いに乗り、二人はやってきた電車で少し先の駅へ行くと一緒に居酒屋に入った。


「それじゃ久々の再会に乾杯!」

知秀はそう言うと手際よく運ばれて来たビールジョッキを掲げた。
ゴクゴクと一気に飲み干すとぷはーっと大きなため息をつく。

「ちょっと知秀完全に親父になってる〜」
「仕方ないだろ。あの時からもう…八年くらいか?経つんだから」
「そんなにか…元気だった?」
「まあまあな。千代は?」
「私も、まあまあかな」

二人は今どんな仕事をしているかや大学時代はどうだったかなど当たり障りのない話をした。

一杯目のお酒が空になる頃たこわさをつまみながら、千代は何気なく切り出した。


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