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走馬灯
【その他 官能小説】

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走馬灯-6

田宮が田宮であった時、自らが作り出した壁からうらやむように顔を出したことはないだろう。自らを孤高と信じ、周囲を俗世と蔑んでいた頃。どれだけ惨めで、どれだけ哀れであるか知る由もなかった。それは自我を自我のみで判断した詭弁師だったからと推測出来よう。

プライドが高いこと。それは武器にもなれば弱点にもなる。省みるという一点にも様々な意味があり、その分だけ分岐点が生じる。省みたから切り捨てる。省みたから汲み来る。それは全て結果論のみにて評価される。ともすれば世の中は常にラッキーパンチだ。テレフォンパンチでさえノックアウト出来る時もある。

それは恐らく人と人とのつながりがそうさせる。その時の状況下で与えられたエサがどのように映るかに過ぎない。だから何が起こるかを仕組む必要がある。世の中にはびこる作為だ。つまり嘘しかない、嘘を利用する嘘もある。くだらなさ、煩わしさを痛感しながら利用するのが人なのだ。世の中はそんなむずがゆい気だるさが席巻している。

ステージから悠々と降りた田宮は専務と固く握手を交わした。あの時の面接官。ピントは少しずつ広角化していくと、ホテルのホールに整然と並べられたテーブルが見えた。もちろん貸し切り、和洋折衷の立食パーティー。ざっくばらんな雰囲気にモダンな内装がマッチしていた。気が利いているものだ。他の会社もこんなものだろうか。飛んでいった先は入社式。新入社員は大体100人ぐらいだったか。あまり記憶にないが、1つ覚えているのは、かおりと出会ったということ。

どんな演出家であっても、過去を忠実に再現することはできない。それはどんな俳優であれ、どんな監督であれ然り。眼前で出会う2人。今の自分が誰であるかは容易に想像がついていたからはっきり見える位置にいた理由も分かる。料理とかおりにのみ執心し、この時は俺に話しかけて来なかった。まだ先の話だ。

ガラスが高らかに割れる音、すぐ後ろで鳴り響いた。専務の顔がしかめっ顔に歪む。最高に無理をしているおべんちゃらで話していた新入社員の田宮の顔がこわばる。スイッチの音が田宮の心と俺の心に悲しく響く。こういう事態はとっさの機転が試されるというものだ。その点は後にそこそこ買われる要因になることを知っている。

やってしまった。飲めない酒を飲み続けた末路、かおりが泣きそうになって割れたグラスを拾おうとする。待ってましたとばかりに田宮の登場。「怪我はない?」優しそうに微笑み駆け寄る田宮、裏に潜む作為に気付く者はどれだけいるだろう。「大丈夫です。」「あっちで休んでなよ。あとやっておくから。」手際よく片付けると同時に、ホール係を呼び、タオルと新しいグラスを指示。あちらの女性にと手を差し向ければ終幕だ。

かおりはもちろん二次面接の時に気付いた1人。それにしても自分のやり方を知っているのはどれだけいるのだろう。客観視してみても、興味が沸かなければ分からないだろうと信じる。ここにいる全ての人間が気付いていたのであれば目も当てられない。誇らしげにするでもない田宮は再び専務と無理な化かし合いを始める。明らかに周囲の目を引くぐらい、何事もなかったようにしている田宮がとても気味が悪く感じる。ひとしきりの静寂がまた喧騒に戻るのに時間はかからなかった。

救いも何もない。自分だけを信じ、世の中にはびこる虚構を逆手にとってきたなら、救えるのは自分だけか。救いたいのか、救いたくないのか。そう考えると昔の自分が戻ってくる。生きていることに価値はあるのか。どうせあの日あの時、訳も分からず殺されるのだから。

…。

……。

………。

殺したのは自分だ。



今こうして過去を巡っている理由。飛び飛びで自分の人生を巡っている理由。


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