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走馬灯
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走馬灯-5

強い意志と、どこか寂しげな瞳を見ることができた。自分流を貫いてきた反面、淡い脆さ、儚い危うさがそこかしこに漂う。「でも、俺は」、5文字が似合う男だった。第二次面接で田宮とかおりは出会うことになる。今の俺とかおりの印象はさほど間違ってはいなかったと思えた。

ジリジリと照りつける太陽のみならず、あの場所の空気は更に汗を誘う。風格漂う5人の面接官、後ろの大きな窓が威圧感たっぷりだ。普段はここでミーティングが行われているのだろう。気付かれないように上に目をみやると、備え付けプロジェクターに対応している形で、巻き型のスクリーンがずっしりと構えている。

そういえば、その日の昼は太巻きを食べたはずだ。大豆イソフラボンが最近の流行だ。似ている…。だからといってこの会社との相性がいいだとか、神頼みに近いことを考えても結果は変わらないだろう。誠心誠意、自分らしさを出せばいいものだ…が。

「Bさんの意見につけたしなのですが…」俺はそこにいる。「それはとてもいい意見で…」では自分は誰だ。「コストとの兼ね合いを考えると…」あの時あの場所にいた。「総合的なプロジェクトになり…」確かにいた。「Dさんの考え方はつまり…」だから俺はそこにいる。「そうだとするとEさんの案は…」では自分は誰なのだろう。

気がつくと名前を伏せた集団面接は佳境に近づいていた。

「Aさんにお尋ねします。この会社でやりたいことがあったら端的に教えてください。」中央のつるりと禿げ上がった男性が田宮に話しかけた。

「分かりません。やりたいことは大きなことから小さなことまでたくさんあります。まずは入社させてもらわねば、この会社の可能性と私の可能性が、どこでどこまでリンクするのか分かりません。どれほど貢献できるか分かりません。また、どれほど私自身を高められるのかも分かりません。ただ中途半端は嫌いです。必ずや結果を残します。やらせてください。探させてください。よろしくお願いします。」

ひそひそと話し合う。どの面接官も顔を見合っては首をかしげあう。心なしか更に気温が上がった気がする。気持ち的な温度も気候的な温度も…か。真っ直ぐで意志が強く、どこか寂しげだった田宮の瞳。なんだか今なら分かる気がした。そんな自分が誰だったのか…気付いた時には意識が遠退いていった。

飛ばされる。次の場所。どこへ行くのだろう。どういうことなのかは分かった。俺にどうしてほしいのかが分からなかった。 思えるだけなのか。何かができるのか。何かをしたら変わるのか。変わる…変わる?変えたいのか?過去を。





「…私たちは新入社員は先輩方に色々と教えていただきながら、一日も早く結果を残すために努力し続けます。これからご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします。」代表者挨拶は田宮だった。整えられた髪型に、胸にはハンカチがパリッとこなされている。胸を張って堂々とただ一度として噛むことはない。こうして離れてみて、欠落した何かが感じ取れる。作られたような凛とした顔や声色。気付かない人には一生気付けないパーソナリティが際立っておかしく見えた。

「あいつ、既存の社員より立派じゃねーか?」どちらかと言えば今回の入れ物に近いタイプが万雷の拍手の中、小言を言っている。


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