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『冬の中のあたたかさと優しさ』
【青春 恋愛小説】

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『冬の中のあたたかさと優しさ』-2

「ありがとう、じゃ、いただきます。」
喜んで私はかぶりついた。「…おいしい。」
さすがに新商品、普通の中華まんとは一味違う。きっと普通のよりは少し値段も高いんだろうな、と思うとちょっとつばきに悪い気がした。
隣を見ると、つばきは、おいしそうにほおばって食べている。その姿が子供みたいで微笑ましくて、見ていてほわ〜っとする。人を和ませる食事のしかたコンテストがあればきっと上位入賞するだろう。いつもつばきはそんなふうにものを食べる。
食べ終わって、手の中から中華まんの温かさが消えると、またすぐに手が冷たくなって、私は両手をすり合わせて息を吹きかけた。
それを見たつばきが
「寒そうだなぁ。」
と言う。
つばきの手は毛糸の手袋に包まれている。その手袋は見るからに厚くて、あったかそう。
と、不意につばきはその手袋をはずした。
「ほら、これ貸してやるよ。」
そしてそれは私に手渡された。
「え、いいの?」
「いいの。」
とまどって私が見上げると、また満面の笑みが降ってくる。
うーん、親切を断らせないコンテストでも入賞しそうだ。
私は遠慮せず、その手袋をつけた。やっぱり男物だから私の手には大きかった、指先が1センチくらい余る。でも、その分あったかい。厚ぼったい毛糸には、まだつばきの手のあたたかさが残っていて、冷え冷えで凍っていた私の手はあっという間に解凍された。

手袋をなくしたつばきの手は、コートの大きなポケットの中にすっぽりと入っている。ポケットに手を入れたままだとあぶないよ、と思ったけど、私じゃあるまいし、そんな心配は無用か。運動神経のいいつばきが転んだところなんて、今まで見たことない。
それにしても
「つばきって、すごい厚着してるよね。」
丈の長いコートの、前のボタンはぴっちりと閉められていて、首には何重にも巻かれたマフラー、厚いニット帽が耳まですっぽり覆っている。冬が入り込む隙間が無いくらいの完全防備だ。
「ん〜、俺寒がりだからさぁ。冬外に出る時はこれくらいやんないとダメなんだよ。」
そう言うつばきに、私はなんとなく猫を思った。
ね〜こはこたつでまるくなる〜♪
みたいな。こたつで丸くなるつばき。想像したらすこし可笑しかった。
私は、庭かけまわる犬タイプかな、どちらかというと。
「あ〜ぁ、早く春にならないかなぁ。」
と愚痴っぽく言うつばき。「やっぱり、つばき冬嫌いなの?」
「あんまり好きじゃないな。ほんとに寒いのダメな人間だからさあ。どっちかっていうと夏が好き。」
「私は冬好きだなぁ。」
へぇ〜、とつばきが言うと、いかにもへぇ〜って感じの白い息が空中にかたどられた。
「私、『あったかい』が好きだから。」
「へ?それじゃ春とかのほうがいいんじゃないの。」腑に落ちない、というふうに聞き返される。
「うん、春もいいけどさ、やっぱり一番『あったかい』があるのは冬だよ。寒いぶん、いっぱい『あったかい』瞬間に出会えるじゃん。」
私は手袋に包まれた両手で、ゆっくりと手拍子するような動作をしながら言った。手袋からは、ポフ、ポフ、というような擬音が聞こえてきそうな気がした。
「あぁ、ナルホド。確かにそうかも。寒いとこからあったかい部屋に入った時とかの、しあわせって感じ。とか?」
「そうそう、ふとんとかこたつでぬくぬく〜ってなるとことか、あつあつの食べ物食べる時とか…」
…転んだ時、差し出された手の温度、とか。
「あ〜、そう考えると冬もいいかもな〜。」
また一瞬まずい方向に行きかけた思考を、つばきのほわっとした声が引き戻してくれる。
危ない危ない。

そうこうしているうちに道が分かれて、私たちはバイバイした。
それから数歩歩いて、手袋を返しそびれたことに気付いた。
返しに戻ろうかとも思ったけど、「まぁいいや」って考えに落ち着いた。今度返そう。
道路は相変わらず凍っていて、空は相変わらず厚い雲に覆われている。
手袋に包まれた手だけは、さっきまでと違ってとてもあったかかった。


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