『ケセナイキズナ《前編:For Sacred Goddess》』-2
ある日、中庭を散歩していると、ある青年と出会った。
金髪に近い茶髪で、根元が黒くなりかけている。
その青年は車椅子に座りながら何かの本を読んでいた。左手にギブスをはめているのだが、左手で本を持ち、包帯の巻いている右手の指で懸命にページをめくっていた。
僕の視線に気付いたのか、青年はふんわりと微笑みながら頭を下げた。僕も彼と同じように軽く微笑みながら頭を下げて、その場を後にしようとした。
「こんにちは」
青年が話しかける。
「こんにちは」
簡単に挨拶を済ませた。すると彼が、何故か肩をすくめる。その様が、何となくひょうきんで、つい笑ってしまった。
「お話でもどうですか?」
青年は言った。僕はそれに賛同し、近くにあったベンチに座る。ベンチは少しだけ遠かったので、車椅子をそこまで押していった。
青年は『菅原 悟《すがわら さとる》』というらしかった。家庭教師をしている親戚の少女と出かけている最中に、この病院の近くで交通事故に遭ったらしい。
どうやら僕と同じ歳らしい。年齢も近いせいか、他愛もない会話で盛り上がり、お互い退院したら、今度は友人として会おうなどと話した。
そこまで話を聞くと、向こう側にその子らしき少女が見えた。
「あの子だよ、瀬上《せがみ》くん」
菅原君が言って、その少女に手を振る。
その子は駆けてきたと思うと、すぐに「大丈夫ですか、悟さん?」と、早速菅原君の身を案じる。僕が犯罪者にでも見えたのだろうか?
「桃《もも》、失礼だよ。それじゃあ俺が彼に何かされたみたいだろう?」
「彼氏の身を心配するのは、彼女として当然です」
桃と言われた少女は、心配する体勢を崩さずに彼に言った。
愛の形は人それぞれだな。そう考えるようにした。