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ジャム・ジャム・ジャム
【SF その他小説】

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レッド・レッド・レッド-29

「どうやって、と言いたそうな顔だね。実はだね、ダンジョンの上方にカメラがついていて此処からその様子を見ることができるんだ」
唖然とするエイジとダナであったが、ジャムはどおりで、と口の中で呟いた。
遺跡に入った瞬間に感じた妙な違和感。遊園地に来たような、その感覚は間違ってはいなかった。
誰かに見られている気がするという彼女の言葉も、ローゼンロットではなくカメラ――サイファ博士に見られていたということだろう。
「ダンジョンはこのラボの真上に位置している。わしは此処で研究をしながら、やってくるトレジャーハンターの様子を見ているのだよ」
驚いていたエイジだったが、彼は胡乱げに博士を見やり言う。
「領主が、何でそんなことをしてるんだ?」
「そォよ! それにどうしてそンな格好してるのよ」
ダナも納得のいかない様子で、幾分か怒ったように言う。
サイファ博士は笑って彼らの疑問を聞いていたが、不意に笑うのを止め、遠い目でどこかを見つめながら口を開いた。
「わしはこのリベルの領主の息子に生まれてね」
「当然、領主もぶどう酒の蔵も継がねばならない運命だった……」

(ああ、これは話が長くなりそうだ)
三人はそう思いながらも、話の続きを待った。
「しかし、領主の息子というだけで蔵を継がねばならないのにわしは疑問を感じた。君くらいの時には、流されるばかりの人生なんてと思ったものだ」
そう言ってジャムを見やる。どきりとしてジャムは少しばかり身を竦めた。
博士は彼女から視線を外し、話を続ける。
「折りしもその頃、大学というものがそこら中にできてな」
「機械工学を学びたいと思ったわしは、必ず農園と蔵を継ぐとの約束で惑星スカラにある大学への進学を許された。もうそれは必死になって勉強したよ。もっとも、勉強や研究は実に楽しかったがね」
博士は笑いながら、近くのコンピュータに触れた。
「機械工学のみならず生物工学を学んだわしは、ぶどう酒づくりの効率よいやり方を見出した。見出したとは言っても、単純に機械を導入しただけだがね。
その頃、すべてリベルのぶどう酒は手で作っていたのだよ。今となっては考えられない話だがね」
「でも、アタシ今でも手でぶどうを摘んで絞ってると思ってたわァ」
ダナが言い、彼の言葉にジャムも頷いた。
「プロヴァンスでも手でやってるのを見るけど」
「プロヴァンスなら分からなくもないがね。少なくとも、リベルじゃ手作業というのはないな。もっとも、観光客用に昔ながらの蔵を見せてはいるがね。裏を見てみればこの通りさ」
そう言って博士は天井を仰いだ。つられて三人も上を見上げる。
コンピュータの積まれた部屋。奥の一角には、実験器具の置かれた台もある。
ぶどう酒の発酵具合を示しているものなのだろうか、絶えずコンピュータは計算を繰り返していた。
遺跡へやってくる途中で彼らが見た、ノスタルジックなぶどう畑の様子とは大違いである。
「なンだか、がっかり」
「それでも味は上がっている筈なんだよ。念入りに研究を重ねたものだからね。おまけに大量生産もできる」
「だから混ぜものないのに安いんだな」
エイジの言葉に博士は頷いた。
彼は近くにあった、ぶどう酒のラベルを手にとって笑う。
「そういうことだ。美味いものを安く、というのが大事だとわしは思っているよ」
まあ最高に美味い個性のあるものはそれなりの値段もするがね、と博士は言ってラベルを机に置いた。


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