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万華
【SM 官能小説】

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万華(その5)-3

ビシッ…
鉛色の音だけが不気味に部屋に響いた。振り下ろされる鞭がまるで生き物のように今度は、
僕の太腿に吸いつく。僕は内股を摺り合わせるように下半身をよじる。
「あうっ、ああーっ…」
脳髄の裏側が真っ白になりながら、僕の喉から迸る嗚咽が耳鳴りのようにどこかで響いていた。
 僕は苦痛に眉間を寄せ、燿子の鞭を背中や臀部、そして太股にかけて容赦なく浴びるのだった。
 燿子の黒髪が踊り、紅潮した肌から汗が飛び散る。僕の体がのけぞり、爪先が突っ張るように
ピンと伸び、体を吊す天井から垂れた鎖が金属的な軋み音をたてる。
 蠱惑的に頬を染めながら鞭を振るときほど美しい燿子はなかった。妖しい光に照らされたその
海藻のような燿子の繊毛の光沢が、僕の疼きを増していくのだ。
 背中に走る激痛が、澱んだ密室の空気を切って、鋭い鞭の音とともに僕の身体を貫く。
僕はその砂をまぶしたヤスリで肌を擦られるような鞭の痛みに酔ったような呻きを洩らす。
 それは鋭く尖った刃物で肌を斬りつけられるような快感そのものなのだ。

 あのころ僕の喬史さんに対する心の葛藤は、もっと激しい痛みを求めていた。
 身も心も喬史さんに僕が支配されていることを…喬史さんのその鞭を振るう手に…そして喬史
さんのあの以前と変わらない僕に対する疼きとして感じてもらいたい欲情だった。
 長い一本鞭が鈍い音をたて、僕の骨を砕くくらいに打ち、幾筋もの鞭痕が僕の白い肌に彩った
あのときの記憶…。
 叩きつけられる激痛に僕は悲鳴をあげながら必死に耐えていた。僕の裂かれて紫色になった舌
のような肉棒の中心を突き抜ける針のような鞭の痛み…あまりの苦痛にのたうつ奴隷のような
僕を弄び、喬史さんは嘲笑しながら鞭を振り続けたのだった。



 私は、あの銀髪の男が去った高層ホテルの窓から、あふれるほどの光の粒に満たされた夜景を
見ていた。あの銀髪の銀行員は私を強く抱擁し、あの私の尿液を呑み干した唇で私の頬に接吻し
このホテルの部屋から出て行った。
 ガラスに映った私のうなじにある黒い点のようなほくろ…そうだったのだ。似ていたのは私と
アキラのだったのだ…。アキラのあの白いうなじのまったく同じところにあったホクロ…
 どうして私はあのとき気がつかなかったのか…。

 今、あの銀髪の男がいない一人の部屋で、私は少しずつ男たちを嗜虐する快感が薄れていくの
を感じていた。アキラが私の前から突然いなくなったあの日からだ…。
 私はガラス窓に映った淫部に手を伸ばす。すでに乾いた繊毛に指を絡めながら、陰部に指を
触れる。確かに乾いていた…。内蔵をえぐり出され、白骨化していく屍骸の陰部のように乾いて
いた。今までずっと潤んでいた私の中の何かが乾いていたのだ。

 数ヶ月前に、母の静子は闘病のすえに最後の息をひきとった。最後まで澱んだ瞳から私に語り
かける言葉はないと思っていた。
 でも、母は最後の息を引き取る寸前に、その白い喉を蠢かせ、苦しげに嗚咽を繰り返し、私に
語ったのだ…。
 知らなかった…私は何もかも知らなかったのだ。喬史やアキラのこと、そして自分自身のこと
すら何も知らなかったのだ。そこには、はっきりとあの男の呪われたような血が浮かんでくる。
 闇の中の立ちこめた霧がすっと消えてなくなり、あの男の血によって翻弄された者たちの
堕ちた灰褐色の地の底が見えてきたのだった。

 眼下に広がる夜景が、砕かれたガラスの破片のように鋭く私の肌を刺す。私は、指を強く陰部
に挿入させる。そのときなぜかあの男のもので、私の淫唇の中を抉られるくらい激しく引き裂か
れたい新たな肉欲の疼きに駆られるのだった。


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