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七夕には愛を囁いて
【幼馴染 官能小説】

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七夕には愛を囁いて-3

「……。お前ってすぐに毛先にさわるんだな。入って来た時から見てたけど、馬鹿みたいに触りっぱなしだ。癖だろ」
ほら、と右の耳に被さった部分を引っ張る。よっちゃんの体温を耳たぶに感じ、ビリッと電流が流れた気がした。
「どした?」
「きゅ、急にさわらないでよ。びっくりした、じゃん」
徐々に赤くなる頬が恥ずかしい。薄暗いから気付かないだろうけど。いや、気付くな。気付いちゃダメ。
「変な奴」
そう呟いてキーを捻る。エンジン音が響き、タイヤがするりと地面を滑っていく。ぱたぱたとフロントガラスに弾く雨粒。右に左に動くワイパー。車内に流れる音楽はあたしが録音した洋楽。女性歌手のバラードなんて、よっちゃんの車だから変な感じ。
「んで、なんなんだよ。昼間の話」
カーステレオのボリュームを絞り、さっさと喋れと横目で睨む。
「あのね、明日は日曜でしょ。あたし休みなんだよね」
「そう」
「でさ、もう夏じゃん?」
「ああ、そうだな」
「夏って言えば夏休みよね」
「片寄ってるな。お前」
「海も行きたいし、花火も見たい。でしょ?」
「別に。個人の思想だろ」
酷くどうでもいいように返す。違う、解ってない。だって日曜はよっちゃんもお休みなんだよ。
デートなのに全然甘くないし、優しくない。いつも通りの態度。あたしはイライラを隠せない。
「行きたいのよ!」
「は?」
「海に、花火に、ダイヤモンドに!」
言ってから気付く。
しまった。こんな感じで言うつもりじゃなかったのに。
あたしの顔、相当まずいって顔だったと思う。
甘ったるく、可愛いらしく、よっちゃんに「うん」って言ってもらいたくて誘うはずだったのに。
女性シンガーの甲高い歌声。苦しそうで切なくって、今のあたしは心の中で彼女みたいに叫んでる。
違う、違うの。押し付けたい訳じゃないの。ただ、よっちゃんとデートしたいだけで

「……じゃあ行くか」

俯いてたあたし。耳を疑うような言葉が降って来た。二、三度瞬きをして。鳩が豆鉄砲喰らった顔、ってやつ。


「今から行くか」


恐る恐る見上げたよっちゃんの顔は、前を見つめたままでいつもと変わり無いんだけど。
口元が笑ってた。
悪戯っ子みたいに。
昔みたいに。
「行くって、今からって、マジ?」
「行きたかったんじゃねぇの?違うんだったら別に良いけど」
「行く、行きたい!」
笑みが広がる。あたし、今、世界一幸せ!
「よっちゃん!」
「あ?」

「だいすきっ」





今から行くって言われて、嬉しさで先が見えなかった。
夕闇を裂くように車は加速していく。家々に明かりが点り、こんな小さな田舎町も人工的な光に溢れていく。
19時前。よっちゃんはスーパー「如月」に停車した。
「おい、家に連絡しろよ」
キーを捻り、携帯を開きながらよっちゃんは言う。肩と耳に挟みながら早々に自宅にかけている様子。
家に連絡、って事は。
どくどくと心音が高鳴る。携帯電話を握りしめる指先が熱い。電話帳から自宅を選ぶ。上擦る声。いけないことをしてるわけじゃないのに、後ろめたい、かも。
「あたし、英津子だけど。………うん、友達と。……呑んで多分午前様かな?……うん。泊まってくるよ」
あたし変じゃないよね。お母さん、ごめん。今日だけ、ごめん。心配かけたくないの、ごめん。だって…だって、好きだから。


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