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きみおもふ。
【純愛 恋愛小説】

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きみおもふ。-5

「おい」

逸の声。くる、と振り返る友夏に彼は顔を背けたまま告げた。
「来い、送るから」
「え…?」
ポカンとする彼女に逸は不機嫌さを顕にして再び告げた。
「ついでだから送ってやるって言ってんだよ」


友夏の家と逸の家は自転車で30分ほどかかる距離にある。ちなみに学校から近いのは逸の家だ。これまた30分ほどかかる。
友夏は自転車の荷台に乗っかりながら風の奏でる音に耳をかたげていた。
会話は無い。通り過ぎる車の音が場を保たせている気がする。

がたんっ

「っきゃ」
突然自転車が揺れた。慌てて逸の制服を掴む。
掴んでからハッとする友夏。
「ご、ごめん…」
気まずそうに、服を掴んでいた手を離しかけた、その時。逸が前から手を回して友夏のその手をとった。
そのまま彼女の手を自分の前へ回す。
「馬鹿、ちゃんと掴まってろ。落ちても知らねぇからな」
「え、あ、はい…」
言われた通り、恐る恐る逸に掴まる友夏。触れたところが布越しに温かい気がする。
その感覚に、友夏は無意識に頭を逸の背中にくっつけた。
(懐かしい…)

フ…と逸の頬が赤く染まる。今すぐ自転車を放り出し彼女を抱き竦めたい衝動を押さえ、ギュッとハンドルを握った。

「ゆか……」

微かな声。彼女の名も、その後に続く言葉も誰の耳にも残らず風に乗って流れ去る。

―――ゆか、好きだよ



「あ、逸くん…」
逸の家が間近に迫った時、友夏が声をあげた。
「私、逸くんちから自力で帰るからそこで降ろしてくれていいよ」
「なんで」
単語で返す逸の声の中に冷たさを感じ取る友夏。
「だ、だって逸くんに迷惑だし……ほら、逸くん難関大学受けるんでしょ?勉強しなきゃでしょ?」
焦ったように弁解する。
「ゆかは…」
「え?」
「ゆかはどこ受けるんだ」
「あー…あたしは行けるとこかな。逸くんみたく頭よくないから」
あはは、と苦笑して友夏は答えた。そう、と逸の返事が闇へ溶ける。

キィッ。

自転車が止まった。ふと周囲を見渡すと懐かしい町並みが目に映る。逸の家に着いたのである。
「あ、送ってくれてありがとう」
ぴょこんと荷台から飛び降りて友夏が言った。逸も自転車から降り、ガレージを開ける。
「じゃあ……」
方向を変えた友夏の腕がとられ、引き止められた。
「寄ってけ」
「え、でも」
「いいから」
ほぼ強制的に玄関へ引き入れられる友夏。
「逸くん…私…」
困った様子の友夏を気にも止めず、逸は声を張り上げる。
「ただいまぁ」
全く誰も出てくる気配が無い。さっさと玄関をあがる逸を見、仕方なく友夏も挨拶をした。
「お邪魔しまぁす……」


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