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きみおもふ。
【純愛 恋愛小説】

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きみおもふ。-15

「万秋、お帰り」
ひょいと顔を上げて友夏が微笑んだ。
「あーー友夏ねぇただいまぁぁ」
にっこぉっと顔を綻ばせて朝森万秋は友夏に飛び付く。万秋は中学二年生。べたべたのお姉ちゃん子だ。
「友夏ねぇが早く家に居るの久しぶりだ。部活がなくてよかったぁ」
そう笑う万秋の顔が幼い頃の友夏に似ていて、逸の胸がギュッと痛んだ。
「こら万秋、ちゃんと逸くんに挨拶して。それから手洗いうがいしてくるのよ」
友夏が妹に笑いかけるとしぶしぶと妹は立ち上がる。
「久しぶりです、逸兄ちゃん。ようこそいらっしゃいです」
ぺこり、と頭を下げた、その時。
「でも」
バッと顔を上げる万秋。
「友夏ねぇはあたしのだかんね!逸兄ちゃんには譲らないよーだ」
べーと舌を出してあっという間に走り去る。
「こら万秋っ!あらもう、ごめんなさいねあの子ったら、なんて失礼な」
困った顔で逸を見る友夏母。いえ、と笑い返すが、逸の心は笑えていなかった。

自分もあんな風に想いを口に出来たらどんなにいいだろうかと。
友夏に伝えられたら、どんなに救われるかと。
ただそれだけが、彼の胸を掠めていった。


翌日はやっぱり雨だった。昨晩から降りだしたものが歯切れ悪くダラダラと降り続いているのである。
「ゆかー、行くぞー?」
腕時計に目をやりながら、呆れたような声で逸が玄関ホールから叫んだ。
「今行くー!」
何度目の「今行く」だろうか。軽く溜め息をついて壁によりかかった。だがその表情はどこか優しい。

「お待たせお待たせ」

ぱたぱたと軽い足音を響かせながら友夏が階段を下りてきた。
「探すの手間取っちゃって」
と言う彼女が手に持っているのはマフラーである。
「もうマフラー?お前寒がりだな」
「うん、私『友夏』だから」
どうやら名前に『夏』が入っているせいだと言いたいらしい。はいはい、と苦笑して逸は友夏の頭を撫でる。
「あーバカにしてるでしょ」
「してないしてない」
「嘘。してる」
「はい、してます」
「っちょっと、逸くんっ!」
軽く振り下ろされる友夏の拳を掌で受けとめながら、逸は声を張り上げた。
「叔母さん、いってきます!」


「何もこんな日に自転車乗らなくてもさ」
膨れながらマフラーに顔を埋める友夏。二人は傘をさしながらバス停までの道程を歩いている。逸は自転車を曳きながらだ。
「一緒にバスに乗ってけばいいじゃんか」
「だって愛車置き去りになんてできないし」
逸が苦笑して答えた。
「なぁに?ゆかちゃん拗ねてるのかな?」
冗談混じりに吐いた台詞。ところが友夏は思いもよらない言葉を口にした。


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