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きみおもふ。
【純愛 恋愛小説】

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きみおもふ。-14

友夏の家に着く頃には、時計の針は四時過ぎを示していた。学校を出たのは十二時半頃だったのだが、途中寄った逸の家で足止めを食らったのである。もちろん逸母によって。
ご飯を食べていきなさいと強制的にダイニングテーブルへ座らされ、これでもかという程食物を食べさせられたのだ。
更に休んでいきなさいとリビングのテレビの前に座らされ、泥沼の昼ドラビデオを延々と上映されたのである。どうやら逸母は今まさにブームの最中らしい。
そうして家を抜け出せたのが約三時半。決死の逃亡劇だった。

「ごめんな、ホント…」

何度目か分からない逸の台詞に友夏は苦笑する。
「いいってば。気分転換になったもん。あ、自転車ここね」
言われた場所に自転車を置く逸。その頬を何かが弾いた。
「冷た…」
手を頬に当てながら空を見上げる。そこには、先程とは打って変わって一面暗雲が覆っていた。
「雨になりそうだな…」
「本当。また寒くなるね。明日から十一月だもんね」
ふるふる、と身震いをして友夏は玄関を開ける。
「汚い家ですけどどうぞ」
「お邪魔します」
ほわり、と暖かな空気が二人を包んだ。やはり建物の中は風があたらない分暖かいのだろう。

「友夏?逸ちゃん?」

奥の方から声がして、女の人が現われた。逸を見止めて満面の笑みを浮かべる。
「あらぁ、男前になって!逸ちゃん久しぶりねぇ」
「お久しぶりです、叔母さん。お元気ですか」
「ええ、お陰さまで。さあさ、上がりなさいな。今温かいもの用意しますからね」
にこにこ笑って奥へ歩いていく友夏母。友夏と逸は後を追うように玄関をあがる。
「あ、友夏。先に逸ちゃんお部屋にご案内して荷物置いてくるのよ」
「はぁい」
頬を膨らませながら友夏は返事をした。
「全く。お母さんたら逸くん大好きなんだからー。逸くん、こっち」
くっくっと笑いながら逸は友夏に続く。
「ゆかの親といい俺の親といい、自分の子供はそっちのけだな」
そう言われると、と友夏も笑いだした。
「さすが姉妹、叔母さんとお母さん似てるのね」
言葉にフと視線を落とす逸。自分と友夏がイトコだと嫌でも思い知らされる。
この距離が、この関係が友夏が自分を恋愛対象に見ない原因だということも。

「……神様のあほんだら…」

息を吐くようにポツリと呟いて、逸はゆっくり階段を上がっていった。

「さ、そこ座って。友夏はココアよね。逸くんはコーヒーの方がいいかしら?」
リビングへ戻ると、友夏母が笑いかけた。「あ、はい」と逸が答え、二人は座布団の上に座る。
「逸くんは大学入ったら一人暮らし?」
「うん、県出るからな」
「前、男子が話してるの聞いたんだけど、国瀧(くにたき)受けるんだって?」
少し首を傾げて友夏が尋ねた。
「学部は?」
「よく知ってるな。俺は理学部だよ、物理学科。そういうゆかは……」
「あらすごい!国瀧っていったら偏差値かなり高いでしょう?」
逸の言葉を遮って、友夏母がお盆を手にやってきた。テーブルにティーカップとクッキーを乗せながら更に続ける。
「すごいわねぇ。友夏、逸くん見習いなさいよ?」
分かってるーと頬を膨らませて友夏はココアを啜った。そんな彼女に途切れた質問をしようと逸が口を開く。
「あ、ゆかは……」

「逸兄ちゃん!?」

バン!と大きな音と共に現われるセーラー服。男の子に負けないくらい短く切った髪が乱れている。


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