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face【 顔 】
【純愛 恋愛小説】

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face【 顔 】-4

 翌日…自宅で一人でいる花梨の元に、友彦が訪れた。
「もう…杏里の初七日が過ぎたんですね」
 遺影の中で、生前と変わらない無邪気な笑みを浮かべている、制服姿の杏里に、両手を合わせて友彦は呟いた…。
「まだ、アイツのコトだから…ひょっこり帰って来るんじゃないかと…今でも思うんです…バカですよね」
 花梨は無言のまま、立ち上がった。
 お茶でも出すつもりかな? と、思いながら友彦が部屋から出ていこうとする花梨を、なにげなく目で追った…その時、花梨は小首をちょっと、かしげて前髪をいじった。
 その仕草を見た途端…友彦はドキッとした、それは杏里が、時々みせていたクセだった。

 まさか…そんなっ!
 次の瞬間…友彦は恋人の名前を口にしていた。
「あ…杏里!?」
 その名を聞いた、花梨はビクッと驚いたように振り返り、友彦を見た。
「杏里…杏里なのか?」
 逃げるように部屋から、走り出す花梨。
「待てよ!」
 友彦は花梨を追って、二階に続く階段の手前で花梨の手首をつかんだ。
 「おまえ…杏里なのか?そうだろう?」
 友彦の問いに、壁に押さえつけられた花梨は首を横に振りながら…顔を友彦からそむける。

「ちっ…ちがうっ」
 事故後…花梨が初めて声を発した。その声はまぎれもなく杏里の声だった。
 友彦の顔に驚きと、喜びの入り混じった表情が浮かぶ。
「生きていたんだ…良かった…」
 友彦の目に涙が浮かぶ…と、同時に友彦は深い疑惑を、生きていた杏里に感じた。
「じゃあ、亡くなったのは、お姉さんの方だったのか…まさか、杏里…このまま、お姉さんの代わりに結婚するつもりだったのか? そんなコトできるワケないじゃないか!」
 花梨の顔をした杏里は、泣きながら大きく首を振る。
「わかっている…そんなコト最初から、わかっている!!」

 友彦の手を振りほどいた、杏里は階段を駆け上がり…今は自分の部屋として、使っている亡き姉の部屋に飛込むと、ドアに鍵をかけた。
「杏里! おいっ!杏里!」

 追ってきた友彦の、ドアを激しく叩く音…。
 杏里は鏡台の前で、自分の顔を見た。
 そこには、涙で歪んだ姉の顔があった。
「お姉ちゃん…助けてよ…あたし、どうしたらいいの…前みたいに微笑んで…あたしを助けて…笑ってお姉ちゃん…お願いだから、笑って答えてよ…」
 杏里は、鏡台の前で泣き崩れた。

(ちくしょう…どうして…どうしてなんだよ…)
 同じようにドアを叩いていた、友彦も拳を握り締めると。力尽きたように床に伏せて泣き出した。

 三日後…ふたたび近くの公園に、柊一から呼び出された杏里の姿があった。
「もう、ムリをしなくてもいいんだよ」
 町並みを眺めながら、柊一が呟く。
 杏里は花梨の顔で、柊一を見た。
「杏里ちゃんなんだろう…本当は」
 柊一の言葉に、杏里は静かにうなずいた。
「ごめんなさい…あたし…あたし…」
「もういい…もう、いいんだよ…辛かったんだね…苦しんでいたんだね」
「あ、あたし…お姉ちゃんの気持ちを考えたら…本当のコトを言えなくなっちゃって…お父さんやお母さんの喜んでいる顔見ていたら…もっと、言えなくなっちゃって…ごめんなさい…ごめんなさい…」
 杏里は柊一の、胸に顔を埋めて泣き出した。
 柊一は婚約者の顔をした、花梨の妹の涙を優しく受け止めた。

 背格好が似ていた…姉妹だから顔の骨格も似ていた…でも、花梨の顔を間違って作られてしまっていても…この子は、別人…花梨の代役にはなれない。柊一は杏里の頭をなぜた。
「いつから…お姉ちゃんじゃないって気づいていたんですか? 友彦が話したんですか?」
 柊一は、静かに首を横に振る。


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