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face【 顔 】
【純愛 恋愛小説】

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face【 顔 】-1

 あなたは、何を基準に人を愛したのでしょう?
 あなたは、愛した人が別人になったとしても…その人を愛し続ける自信がありますか?

 英語の機内アナウンスが流れるロサンゼルス経由で、サンフランシスコに向かう、米国の民間旅客機の中で…高校生の杏里〔あんり〕は、窓際の座席で、となりに座る姉の花梨〔かりん〕に話しかけた。
「お姉ちゃん、見て…綺麗な山並みだよ」

 英字の機内誌を読んでいた、五つ年上の花梨が顔を上げて微笑んだ。
「本当ね…」
「あと、どのくらいでサンフランシスコに到着するの?」
「さっきのアナウンスだと、二十分ほどで空港だそうよ…」
「そっか…うらやましいなぁ、花梨お姉ちゃんは英語ペラペラだもんね…あたしも、お姉ちゃんの半分くらいの語学力あれば、英語のテストなんて楽勝なのになぁ」
 そう言って、杏里は首をかしげながら、前髪をいじった…時々みせる、彼女のクセだ。

 花梨と杏里は仲の良い姉妹だった。
 杏里は高校の春休みに『独身最後の記念旅行』をするという姉に誘われて、今…アメリカ西海岸をロサンゼルスから旅客機を乗り継ぎ、サンフランシスコまで、移動している最中だった。
「でも…独身最後の旅行なのに、あたしと一緒で、本当に良かったの?」
「ここまで来て、なに言っているの…杏里も前から来たいって言っていたじゃない」

 花梨は、クスッと優しく笑った。
「一人で旅行したって、楽しくないでしょう…そんなコト気にしないで、杏里は観光を楽しみなさい」
「うん、お姉ちゃん…ありがとう」
 杏里の視線が、姉の左手の薬指に注がれる…姉の薬指にはプラチナの婚約指輪が光っていた。

「お姉ちゃん…この旅行から帰ったら…柊一さんと結婚するんだよね…うらやましいなぁ」
「杏里にだって、BFの友彦くんがいるじゃない…」
「え───っ、ダメだよぅ…アイツなんて」
 杏里は不満そうに、プクッとホホをふくらませた。
「鈍感で、ぜーんぜん、女心わかっていないんだからぁ…この旅行に行く時だって、土産物の催促しかしないんだもん…少しは、心配してくれたっていいのに」
 杏里が、いつものクセで首をかしげて前髪をいじった。
 妹のそんな仕草を見て、姉の花梨はいつものように微笑む。
「でも…杏里は友彦くんのコトが好きなんでしょう…」
「もうっ、お姉ちゃんのバカ…知らない」
 杏里は顔を、赤らめるとプイッと窓の方に目を向ける。
 花梨は再び、雑誌を黙読し始めた…しばらくして、花梨は左手の薬指に視線を感じた。

 見ると杏里が、じっと指輪を見ていた。
(やっぱり…女の子ね、憧れているのね)
 花梨は、そっと自分の指から婚約指輪を外すと、杏里の方に差し出した。
「試しに指に、はめてみる?」
「え───っ! ダメだよ…そんなコトしたら、柊一〔しゅういち〕さんに怒られちゃうよ」
「大丈夫…柊一さんは、こんなコトで怒ったりしないわよ…ここだけの秘密…それなら、いいでしょう」
 花梨は杏里の薬指に、指輪をはめた。
「指のサイズ…ぴったりね、似合うわよ杏里」
 杏里は、ちょっと嬉しいそうにプラチナの指輪を眺める。
 花梨は杏里越しに見た、窓の外の山並みが妙に近いような…そんな気がした。
「いいなぁ…あたしも、いつか結婚できるかな」
「できるわよ、杏里だって…」

 花梨が、そう言った次の瞬間!! 機体が大きく揺れた。そして、いきなり失速した旅客機の、前方がガクッと下がる。
 「きゃ───っ!?」
 前屈みに頭を座席に、激突させて悲鳴をあげる杏里…機内にパニックが広がり悲鳴が響く…緊急ランプの赤い光りが、点滅する。
 非常事態を知らせる、警戒音が鳴り響き…急激な気圧の変化で、杏里は耳の奥が痛くなった。
(落ちる!!)

 急降下する機体…杏里は迫る山肌を見た…天井から、荷物が落ちて酸素マスクのチューブが垂れ下がる。

(死にたくない! お姉ちゃん!!)
 杏里は、足元にあった姉の手荷物を抱え、恐怖に体を丸める。
 直後…凄まじい衝撃が、機体を襲う。

 激突と同時に、隣に座っていた姉の体が、浮かび上がり、天井に叩きつけられる光景を杏里は見た。

(…きゃあ!!)
 体ごと裂けた機体から、放り出される杏里。

 爆発音が鼓膜を震わす中…落下した茂みの中で、顔面に強い衝撃を受けて、杏里の意識は途切れた。


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