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face【 顔 】
【純愛 恋愛小説】

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face【 顔 】-3

 日本の病院に入院した後も、花梨は一言も声を発しなかった。診察した医師の話しだと、事故のショックのせいではないかと…いうことだった。
 妹、杏里の葬儀が終了してから…一週間、今日も花梨が入院している病室に、婚約者の柊一は訪れた。

「どうだい具合いは…」
 病室に入ってきた柊一は、静かに微笑んだ。
 花梨は無言で、病室の窓から見える風景を包帯の巻かれた顔で、眺めていた。
「今日は花屋に寄って、花梨の好きなカスミ草を買ってきた…看護婦さんに、頼んで部屋に飾ってもらうからね」
 柊一の言葉にも、花梨は無反応で窓の外を見ている。
「それじゃあ…また、来るから…花梨」
 柊一が、病室から寂しそうに出て行った。

 その時…花梨の目から出た涙が、包帯ににじんでいたコトを…柊一は知らなかった。
 次の日、杏里のBFの友彦が花梨の病室にやってきた。

「事故の時のコトを教えてもらえませんか…」
 パイプ椅子に座った友彦が、沈んだ口調で尋ねた。
「まだ信じられないんです…杏里が死んだなんて、こんなコトになるならアメリカ旅行に行くって言った時に、反対していれば良かった…」
 うつ向いた友彦の目から、大粒の涙がこぼれる。
 そんな友彦を、花梨は、悲しそうな目で見ていた。
「アイツ…ちょっとドジで…甘い物が好きで…アイツが死んで…オレ、はっきりわかった…今なら言える…オレ…アイツが…杏里が好きだ…」
 友彦は、うつ向いて鳴咽〔おえつ〕をもらした。
 友彦は涙を拭った。
「杏里が生きている時に、もっと好きだって言ってやれば良かった…」

 友彦は、椅子から立ち上がり、花梨は無言で眺める。
「すいません…お姉さんに、こんなコト話して…やっぱり、事故のことは思い出したくないですよね…失礼しました、早く元気になってください」
 病室から出て行く、友彦の後ろ姿に…顔に包帯を巻かれた花梨は、何か言いたそうに口を開き…唇を噛み締めて、思いとどまった。

 友彦が病室を去ると、花梨は枕に伏せて…無言で泣いた。

 数日後…花梨の包帯が外れる日がやってきた。
 花梨の両親、柊一、友彦が見守る中で…医者と看護婦の手で静かに包帯が、外されていく。

 手術は完璧だった…外された包帯の下から、花梨の顔が現れた。
「…花梨…おぉ…」
 母親が、花梨に泣きながら抱きつく。
 手術痕も残っていない自分の顔を…花梨はさすった。
「よかった…よかったね…杏里は残念だったけれど、おまえだけでも生きて帰ってきてくれて…花梨」
 嬉し泣きする父親と母親…花梨は、静かに二人の手を握り締める。

 そんな中…そっと、病室を出る友彦の姿を柊一は見た。
 通路のソファに力無く座り、泣き声で呟く友彦。
「バカやろう…死んじまいやがって…杏里のバカやろう…」
 柊一は、そんな友彦の姿に言葉もかけられずに…静かにドアを閉じると、病室へともどった。

 そして、鏡でじっと…自分の顔を見つめる、婚約者に心の中で呟いた。(おかえり…花梨)と。
 さらに数日後…退院して自宅休養に移った、花梨を柊一は…花梨の家の近くにある、高台の公園に呼び出した。
「覚えているかい…花梨、この場所を…」
 夕暮れ迫る公園から、町の夜景を眺めながら柊一はかたわらに立つ花梨に語りかけた。
「初めて君とデートをしたのは、この公園だったね…」
 柊一の話しを花梨は、ただ黙って聞くばかりだった。
「そして…ボクのプロポーズを受け入れてくれたのも、この公園だった」
 柊一は花梨の肩をそっと、引き寄せる…向かいあって立つ…柊一と花梨。心なしか花梨の体が、震えているように見える。
「花梨…」
 柊一は、花梨の唇に自分の唇を近づけた。
 両目を見開き…小刻に体を震わす花梨…花梨の手が、柊一の体を押しもどした。
「花梨…?」
 いきなり、花梨は柊一に背を向けると走り出した。
 柊一は、自分の前から走り去っていく花梨を見つめた。
(花梨…君は…)
 そして…柊一は今まで、花梨をつかんでいた自分の手の平を眺めた。


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