Unknown Sick-82
真っ白になった彼を見たとき、私は吐き気がした。目の前の現実が、信じられなくて、認めたくなくて。彼がこんなにも細くて、もう顔がわからない。骨……だけ。
私とお姉さん、そして雅也さんとで骨を骨壷にゆっくりと移しました。
その骨は、驚くほど軽かった。彼だったものは徐々に小さな骨壷に納まりました。
でも、もう我慢の限界。
「どうして……? まーちゃん!」
「藤堂……」
みっともなく彼に……彼だったものに叫ぶ。
「これから一緒に暮らそうとも思ってたのに……どうして?」
「藤堂、落ち着け。俺とまー姉だって辛いんだ」
「ねぇ、まーちゃん!」
その時、耳元で誰かがそっと呟きました。それは懐かしい声、私が大好きな声。私を後ろから抱きしめて、ゆっくりと、呟きました。それは幻、わかっています。でも、違う。幻というもので定義されているのですが、違うんです。
『俺のこと、忘れないでくれ……そして』
まーちゃん……お願い、もう一度だけ、教えて……。
俺は幸せだった。ありがとう、恵。
ぽろぽろと、枯れたと思っていた涙が再び溢れ出す。
まーちゃん。最後に、やっと名前で呼んでくれたんだ……。私も幸せでした。まーちゃんと一緒に居られて、とっても……幸せでした。
「どうした?」
お姉さんが心配になったのか声をかけてくれた。
「大丈夫です……まーちゃんが教えてくれたんです、最後に」
「そう……か」とても綺麗なお姉さんの笑顔。
「で、何て言ったんだよ?」雅也さんの陽気な笑顔。
「秘密です」
涙はまだまだ流れるけど、大丈夫です。私は、あなたのことを想って、生き続けるから。
◆
あれから数年。彼が亡くなってからはあっという間に月日が流れた気がする。とても退屈な毎日で、いつもみたいにチャイムを鳴らせば、彼が出てきそうな気がします。
でも、もうそれも終わり。
私は、今年から教師として働くことになった。私が働く高校の話をしたら、雅也さんがそこは二人の母校だって、笑って話してくれた。なんだか嬉しくて、私も一緒になって笑いました。
今日で、彼と共に過ごした場所ともお別れ。だからお墓参りに来た。お姉さん、雅也さんは休みを取ってくれて、私を見送ってくれるらしい。