Unknown Sick-72
夕食も終わり、夜の語らいも終わった俺と藤堂はベッドで眠りについていた。
しかし俺は目が覚めた。誰かに呼ばれた気がする。周りをきょろきょろと見回し、自分を呼んだ誰かを探した。だが、暗い部屋の中で誰も見つけることができなかった。気でも狂ったのかもしれない。幻聴が聞こえてくるなんて。半身を起こし、思いっきり背伸びをしあくびをした。その後に時計に目を向ける。深夜の二時十四分をデジタル時計は映していた。藤堂を起こさないように、そっと寝室を出た。
寝室を出た瞬間に、もう一度大きなあくびをして煙草に火を点けた。ぼんやりとした明かりが部屋の中を照らし、少しだけ気分が安らいだ。
藤堂に話したことを少しだけ思い出した。高校時代……あの時の自分はさぞや生意気だったろうに。教師たちは大変だったろうな。あの頃は何もかもがつまらなかったな。授業は簡単だった。人付き合いは億劫だった。昔の自分が今の俺を見たら、何て言うだろうか。お前も汚い大人の仲間入りだと皮肉を漏らすだろうか。羨ましいなと羨望の眼差しを向けるだろうか。今の俺を昔の俺は認めてくれるかな。
煙草を灰皿に押し当て、ベランダへと出る。寒い。半月を囲むかのような雲が特徴的な夜だった。
ふと、今なら泣いても大丈夫かなと思う。誰も見ていない、ここには俺以外誰もいない。独りで泣けば、すっきりするかもしれない。泣きつかれて、また眠れるかもしれない。
「……っ」
俺は死ぬ。もうわかってるんだ。体がしっかりと俺に教えている。限界なんだ。いくら体調が良く感じるとしても、いつもと何かが違う。些細なことで疲れるし、目眩もする。吐き気だって、いつ我慢できなくなるものかわからない。
でも、これが俺の勘違いで、杞憂であってほしい。くだらない杞憂で、今度病院に行ったら奇跡とでも言われて、藤堂と幸せに暮らせる。そうさ、そうに違いない。
「くっ……あ……」
今日だけだ。自分を哀れんで、恨んで、呪って泣くのは今日だけだ。この涙は俺だけのものだ。俺のためだけに流れて、きっと全ての感情を流してくれる。
「うぁ……あぁ……あああぁぁぁあぁぁああぁぁぁぁあぁ!」
怖いよ……死にたくない。頼む、頼むよ……俺を生かしてくれ。このまま藤堂と一緒に生きたいんだ。せっかく愛を知ることができたんだ。やっと生きたいと思えるようになったんだ。これで終わりになんかしたくない。
壊れかけた体で嗚咽を漏らし、崩れかけた心で涙を流す。暗い夜空の下、たった一人で、何もかもに耐えながら俺は……今生きている。