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春雨
【純愛 恋愛小説】

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Rainy day vol,2-5

私は玄関で靴を脱ぐと、彼を振り返り
「バスルームはそこね。
服はかごの中に入れといて、着替えは用意しとくから」
と、だけ言って呆然と立ち竦む彼を放置し、まっすぐ続く廊下を歩いて行った。

「さて…と・・」
着替えを済ませ、以前兄が置いていった洋服が置いてあるクローゼットを探した。

「あった。
…捨てなくて正解だったみたいね。」
脱衣場にバスタオルと着替えを持って向かい、かごの中の服を洗濯機に放り込んだ。

キッチンで紅茶を淹れてリビングのソファーに座り、ゆっくりと雑誌を読んでいた。
しばらくして、キィという音がしてリビングの扉が開いた。
顔を向けると兄の服を着た青年が立っていた。
「…あら、もう出たの?」

「…服、ありがとうございました。」
困惑を隠せないような表情で言う彼に、
「兄のだから気にしないで」と、言って立ち上がり、
「お湯、染みたでしょ?
手当てするから座って」
と、言って棚の薬箱を取りに行った。
戻ってきて、彼の前に屈み消毒を始める。
「…っ」
眉を潜めて小さく声を漏らした。
「染みた?
ま、自業自得だから仕方ないわよね」
と、キツい事を言いながら私は手当てを進める。

気をまぎらわす為だろう、室内を見渡していた彼が、
「…お姉さん、もの少ないですね」
と、ようやく声を発した。
私は包帯を巻く手を一時止め、
「…来月、引っ越すから必要最低限しか置いてないのよ」と、答えた。

「一人暮らしでしょ?」
「ええ」
「転勤?」

…私、そんなに歳いってるように見えてるのかしら…

と、内心溜め息を吐きつつも、
「ええ。
実家から通う事になるから家具は必要ないの」
「実家どこ?」
「東京よ」
淡々と答えた。彼の質問には答えるが自分からは何も聞かなかった。

手当てが終わり、私が救急箱を手に彼に背を向けたとき、
「…何も聞かないんだね」と、彼は呟いた。

君は、正直に答える気なんてないでしょ?
・・ま、いいわ。

私はキッチンへ行き、紅茶を淹れたティーカップを二つ持って戻った。彼の前に片方置き、
「聞いて欲しいなら聞いてあげるわよ。」
と、言って彼の正面に座った。

「……お姉さん変わってるね」
「貴方の方が変わってると思うけど?」と、表情一つ変えずに私は言った。

「とりあえず、名前教えてちょうだい」
「…彰太(ショウタ)
お姉さんは?」
・・偽名…か。
ま、仕方ないわね、こんな短時間で信用されるわけないし…。


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