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春雨
【純愛 恋愛小説】

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春雨-1

もう春…なのに頬を伝う雨はまだ冷たい・・。 こうして雨に打たれながら道に佇むのは何度目だろうか。 別に何があったわけではない。 ただ、喧嘩を売られたから買っただけ。 その熱を冷ますために雨に打たれていただけだ。 人々が傘をさして行き交う往来。 俺はそれをただ眺めていた。 一体どの位の時間が経っただろうか。急に目の前が暗くなり、顔を上げると黒いスーツを着て若干色素の薄い髪を背まで伸ばした女の人が無表情で…無言で俺に傘をさし出していた。彼女の背はほとんど俺と変わらなかった。 今までこんなことは一度もなかった…。 躊躇いながら彼女を見れば彼女は一向に傘を受け取らない俺に軽く溜め息をつき、俺の手に無理矢理折り畳み傘を持たせ、立ち去った。 彼女とは一言も口をきいていない。 しかし、彼女の姿が頭から離れなかった。 . あれからしばらく経ったある日 俺はまた喧嘩をした。 何故、みんな群れるのだろう。 精神的に弱いだけか、他の理由か…。 俺は群れるのが嫌いだったから一人で居た。 そしてまた、雨に降られた。 生きる価値を見い出せなかった俺には雨で肺炎になって死のうがどうでもいいことだった。 なにも考えずただその場に佇んでいた。 キィ 耳障りなブレーキ音がした、と思った直後、バンッと扉を閉める音がして気が付くと目の前に傘をさしたあの時の女の人が居た。 「…また、会ったわね」 思ったよりも低い声だった。 最近聞いていた女の声は媚びるような妙に高い声ばかりだったから余計にそう感じたのかもしれないが…。 「…酷い怪我ね。 一本くらい折れてるんじゃない?」 彼女は俺の反応なんか無視して話を進める。 「さぁ」 「・・家来る?」 彼女の言葉に一瞬固まった。 「…何言ってんの?」 「気が向いたのよ。 貴方、人を欲してるような感じがするし」 性的な意味で言ったわけではないだろう…精神的な意味で、だ。 なぜ、この人は気付いたのだろうかと驚いた。 . 気が付くと、俺は彼女の車の助手席に座っていた。 彼女は何も聞かなかった。俺も何も言わないまましばらく走ると高層マンションの地下駐車場に車を止め、彼女は無言で車を降りた。 俺も彼女に倣って車を降り、彼女の後に付いていった。 途中、誰にも会わず着いた彼女の部屋はそのマンションの最上階だった。 彼女は玄関で靴を脱ぐと、俺を振り返り 「バスルームはそこね。 服はかごの中に入れといて、着替えは用意しとくから」とだけ言ってまっすぐ続く廊下を歩いて行った。 俺は指示に従い、バスルームでシャワーを浴びた。温かいお湯が傷に染みて少し痛かった。 着替えって…一人暮らしの気がするけど男物の服あるのかなトカ考えながら髪も洗い、温まった頃バスルームを出ると洗濯機が回っていて、その横の籠の中に綺麗に畳まれたタオルと着替えがおいてあった。 . タオルで体と髪を拭き、用意されていた服を体に合わせると、俺には少し大きめだった。 下着まであることに少し疑問を抱きつつも、他に着るものがないので黙ってその服を着ることにした。 着替え終わって髪を拭きながら廊下に出ると玄関とは反対側の方の正面にある部屋に明かりがついていたのでとりあえずそこへ行った。 「…あら、もう出たの?」 扉を開けると正面のソファーに座って雑誌を読んでいた彼女が音に反応し、顔を上げていった。 「…服、ありがとうございました。」と、言うと 「兄のだから気にしないで」と、言って立ち上がった。彼女は白い薄手のセーターにデニムのロングスカートに着替えていた。 「お湯、染みたでしょ? 手当てするから座って」と、言われソファーに座ると、彼女は救急箱を持ってきて手際よく手当てを始めた。 . 「…っ」 「染みた? ま、自業自得だから仕方ないわよね」 と、キツい事を言いながら彼女は手当てを進める。 俺は気をまぎらわす為に室内を見渡した。 …物がない…。ソファー・ローテーブル・棚・テレビ……広いリビングにそれ位しか置かれていなくてひどく殺風景だった。


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