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ewig〜願い〜
【悲恋 恋愛小説】

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『ewig〜願い〜by絢芽』-7

「まるで人の心みたいだな……」
池に綺麗に映し出された満月は嵩雅様が触れたことによって見えなくなっていた。
私は深呼吸をして、嵩雅様に話し掛けた。
「人の心はこんなにははっきり見えませんよ?」
嵩雅様と話すのはいつぶりだろう?
もう何年も話していない気がしていたけれど、意外と短い期間だったかもしれない。
だけれど、嵩雅様の声を聞くだけで、涙が出そうなほど愛おしく感じるのは、やはり、長い間話してなかったと感じているからなのかもしれない。
「久しいな……お前と言葉を交わすのは。」
嵩雅様は私の姿を見ることなく、私だと当てた。
声だけで私だと当てたことに嬉しさを感じていた。
体が熱くなっている。
顔が真っ赤だと思う。
予想していなかったことに心は爆発寸前なほど膨れ上がっているようだった。
「よく私だとわかりましたね……嵩雅様……」
やっと出した声は、震えていて、かすれていて、きっと嵩雅様も気づいただろう。
だけれど、そんなことを考えている余裕はなかった。
嵩雅様を好きだと気づいて以来、私には余裕がない。
嵩雅様に触れたくて、嵩雅様に近づきたくて、その気持ちを抑えようとして。
余裕がだんだんなくなっている。
今も直、その気持ちを抑えようと必死だ。
抱きしめたい――。
――抱きしめられたい。
好きだって言ってしまいたい――。
そんなふしだらな気持ちを抑えて、必死に抑えて見上げた空には綺麗な満月が浮かんでいた。
月明かりだけが私たちを照らしている。
まるで、世界には私と嵩雅様しかいないように――。
そう思うと少し落ち着いてきた。
もう一度嵩雅様に目を向けると、嵩雅様はまだ池の月を見ていた。
その姿には悲しさや、寂しさはなくて温かさだけが映っていた。
私はその姿に微笑ましさを感じた。
「もうすぐ冬なんですね……、こんなにも月が澄んでいるんですもの。」
こんなに澄んでいる月は、まるで嵩雅様の心のよう……。
嵩雅様の心はとても綺麗で、綺麗過ぎるがためにこの世界を悔やまれている。
そのことを私は隆正様にお仕えして知った。
そして、その綺麗さに私は惹かれた……。
もう一度見上げた月は、さっきよりも綺麗に見えた。
「そうだな……。冬になったら火鉢を毎朝持ってきてくれるか?」
嵩雅様の唇からつむぎ出された言葉には、温かさや愛おしさが込められていた。
昼に鈴原様が話していたことはまんざらでもないかもしれない。
そんな気持ちを抱いても、いいのかな……。
自惚れてもいいのかな……。
「はい、もちろん。毎朝お持ちいたします。」
私はとびきりの笑顔で答えた。
この嵩雅様への想いを込めて。





冬の足音が聞こえてきたある日、先輩たちが噂しているのをたまたま聞いていた。
「ねえ、聞いた?近々、農民たちや武士たちが襲いに来るらしいわよ。」
私は最初何のことかわからなかった。
「え?まさか?そこまで武士たち力つけてるの?」
「そうみたい、年貢で苦しんでいる農民たちを後ろにつけて、ね?」
「大変じゃない。嵩雅様は大丈夫なのかしら?」
私震えが止まらなかった。まさか……。
そんなあるわけがない。
嵩雅様は一番に民たちのことを考えている。
そのことはちゃんと伝わっているはず。
だから……きっと……大丈夫……。
そうでしょ?嵩雅様――。


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