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ewig〜願い〜
【悲恋 恋愛小説】

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『ewig〜願い〜by絢芽』-4

嵩雅様がいる本殿に向かうまでの通りは庭を囲むように出来ている。
庭には大きな池と小さな川があり、家の敷地内だけでちょっとした町が出来ているようだ。
もう、紅葉は散り始め、もうすぐ冬がやってくる。
雪が積もり、寒い季節は『外』の人々にとっては大変で辛い季節だ。
「兄上……姉上……」
兄上や姉上はどうしているだろうか。
貧しい家に残った兄上……。
うちよりは豊かではあるけれども、生活は決して楽ではない姉上……。
姉上とはもう何年も連絡をとっていない。
弟たちはよくしてもらっているだろうか。
そんな不安が心を満たし、全身に広がろうとしていた。
深呼吸をし、その不安が広がるのを防いだ。
(大丈夫……大丈夫……)
そう自分に言い聞かせていた。
そうこうしている間に嵩雅様の部屋の前に着いていたため、嵩雅様に声をかけた。
「嵩雅様、お香をお持ちいたしました。」
いつもと同じ言葉で、いつもと同じ口調で。
なんとかうまくできただろうか……。
この不安を嵩雅さまに気づかれぬようにできただろうか。
ま、嵩雅様はそういうの気づかないか……。
そう自分を自嘲したときに、違和感を覚えた。
いつもならここで、機械ぎみな、でも、最近は温かさもこもった声が返ってくるはず。
だが、今日はそれがない。
寝ているのかな……?とも感じたが、規則正しい生活を送る嵩雅様。
同じ時間に同じことを習慣しているのが嵩雅様だ。
そんな几帳面な人がこんな真っ昼間に寝ているわけがない。
それに、ついさっきまであのおしゃべりで自分勝手で、これぞ貴族とも言える鈴原様がいらしたのだ。
寝ているわけがない。
では何処かへ行っているのだろうかと思い、厠(かわや)や庭、牛舎や、馬小屋を探したが、どこにも嵩雅様の姿は見当たらなかった。
(やはり、お部屋かな……もしかしたらすれ違いになっているかもしれない。)
冷めてしまったお香をもう一度炊きなおし、嵩雅様のお部屋へと向かった。
「嵩雅様?お香をお持ちいたしました。」
先ほどは弱弱しかった声も今は力強い。
もし、嵩雅様が部屋におらっしゃっているのならば、聞こえているはず。
なのにもかかわらず、返事はない。
「嵩雅様?絢芽です。お香をお持ちいたしました。」
今度も力強く、大きな声で呼びかけた。
だが、返事はない。
不安がまたこみ上げてきた。
「嵩雅様?いらっしゃいますか?嵩雅様、嵩雅様?」
どんどん不安が体を覆ってきた。
黒い闇が包んでくるようだった。
それを振り切るかのように、叫んだ。
「嵩雅様?……嵩雅様!!」
勢いよく、襖を開けると驚いた表情を浮かべた嵩雅様がそこにいた。
「は……はい?」
すこし拍子抜けた声で、それに比例した言葉が返ってきた。
まさかいるとは思わなかったのと、ちゃんと生きていたという安堵で、混乱した私も嵩雅様のように、拍子抜けた言葉をかけてしまっていた。
「あ……あの……えぇっと……何度読んでも返事がなかったものですから……その……。」
頭が混乱していて言葉が出てこない。
「俺が死んでいると思った?」
少し悲しげな表情で、でも、意地悪そうな笑みを浮かべた嵩雅様が聞いてきた。
「えぇ!?そんな滅相な……。いや、思わなかったといえば嘘になりますが……。いや、思ってなぁ〜いです!!えぇ!!」
ますます混乱して、興奮した私は何も考えずに口走っていた。
途中で気づき訂正したものの、これでは『死んでいると思っていました』といっているようなものだ。
「ぷっ」
何かを噴出したような音がしたのでそのほうを見てみると、嵩雅様が笑っておられた。
「ハハハ……それは、思っていたと言っているようなもんじゃないか……」
初めて嵩雅様が笑われておられるのを見た。そう思った。
嵩雅様は本当に心から楽しそうに笑っておられた。
それを見て私も楽しく、そして嬉しくなった。


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