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『one's second love』
【初恋 恋愛小説】

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『one's second love〜桜散る〜』-1

今、僕は君に会えない。

一番近くにいるはずなのに僕は君に会えない。

触れることも、声を聞くことも出来るけど、心に大きく空いた穴に次第に負けそうになる。

逃げたい。
逃げ出したい。

けど僕は今、君に会いたい。





新しい私が始まった。
どこかのキャッチコピーのような、そんな自分の境遇が今の私の現状だ。
最初、親に聞かされるまでは全然気付きもしなかった。
私が記憶喪失者だなんて。信じられなかった。
だって私には、過去の記憶がある。
日常の常識がわかる。
医者である兄ほどじゃないけど、成績だってそんなに悪い方じゃない。
その頭の良い兄貴から詳しく説明されたのは、私が断片的な記憶障害であるということだけ。

正直、ホッとした。
私の思い出なんて所詮、どうでも良いようなことばかりだったから、そのなかから一つや二つ失くした所で別に問題ないでしょ?

でも、この街に戻ってきて――。

幼い頃から転校を繰り返してきた私にとってはこの街も例外なく居場所などなかった。たった数ヵ月、過ごしただけの場所に与えられるものなんてあるはずなかった。
それが普通だと思っていた。
でも、何か違う。
ここにゆっくりと流れる時間が、冷たい雨が、朝の匂いが変わりない私を動かしていく。いつしかこの街が私にとってかけがえのないものになっていた。
そう、こんな心境になれたのも認めたくないけどたぶんアイツのおかげなのかも……

「行ってきます」
家を出た私は、まだ誰もいない朝の通学路を横切ってバス停に向かう。
余裕をもって登校するのが私のモットーだ。遅刻などとんでもない。
七時のバスを待っている間、私は目の前にある小さな公園を眺めていた。どこにでもあるようなショボい場末の公園も今では名ばかりを残して誰一人近づかない。
――昔の『私』はこんな場所で遊んでいたのだろうか?
だとすると、幼い頃の私は本当になにもすることがなかったのだ。相当に暇なのか、誰かに会う約束でもなければこんな所に来るはずもない。

「おはよ」
背中を押すような声に、私が振り向くと眠そうな顔をしたクラスメイトの要がそこに立っていた。
「なんだ…要か」
私の毒付いた挨拶を気にした様子もなく、眠そうな顔は欠伸を隠そうともしない。
「珍しいじゃないか。こんな時間から登校するなんて」
「珍しいのは、そっち。私はいつもこの時間にきてる」
そうだっけ、と要は頭をかいて手にしたボストンバックを地面に下ろすと待合所の前のベンチに腰掛けた。
「もうすぐバス来るけど?置いてくわよ」
「ダリィな、学校行くの」
幾分、投げやりなため息を吐いて要が言う。私は仕様がなく同じベンチに座ると相手に向き直った。
いつの間にか煙草をくわえていた。早業である。
もう文句を言う気にもならず、私は降りかかる副流煙を避けることに全力を費やすことにした。


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