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『one's second love』
【初恋 恋愛小説】

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『one's second love〜桜集め〜』-4

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なぜ、そんなことをしたのかよく判らない。
放課後、俺は真っ先に岬のそばに行くと強引に彼女を連れだした。
たぶん、今朝見たおかしな夢のせいだろう。
自分自身に無理矢理言い聞かせ納得させると後は楽だった。
本能に身を任せ、ズンズンと進む。
猪突猛進である。
しばらくすると、痺れをきらした岬の方が俺の手を振りほどいた。
「何すんのよ、急に!痛いでしょ!!」
「俺にもよくわからないんだが…」
離れた手をもう一度掴むと、しっかりと握った。
「こうしなきゃいけないような気がしたんだ」
「ちょっと、待ってよ。皆から変な目で視られるでしょうが」
確かに教室から出ていく俺たちは明らかにクラスから注目を浴びていた。
今頃はだいぶ過激な噂が飛び交っているかもしれない。
「かまうもんか」
「私は構うのよぉ!」
ジタバタ暴れる岬をなんとかなだめて、俺は言った。
「わかった。手は繋がない、OK。その代わり、一緒に付いてきてほしいんだ」
「何処に行くつもりなのよ?」
そこまで言って、俺は全く行き先を決めていなかったことに気付いた。
とりあえず岬を連れ出すことに頭が一杯で、そこから先のことなど考えていない。
散々に迷ったあげく、俺は夢に出てきたあの公園に岬を連れていくことにした。

「誰もいないのね」
彼女はそう言って入り口から奥に向かう砂利道を歩き始めた。
まだ夕暮れに空が赤く染まる前、その中心に立つ岬の顔にもほんのわずかに蔭りが見えている。
俺はポケットから出した煙草に火を点けると、近くにあったベンチに腰をかけた。
「一つ、聞いてもいい?」
落ちた枯れ葉を拾っていた岬が呟くように呼び掛けてきた。
「私のこと、どこまで知ってるの?」
なんで、という言い方ではなくてどこまでという言葉を、彼女は選んだ。
波多野はたぶん、なにも言わなかったんだろう。
「そりゃ、長い付き合いだしなんでも知ってるぞ」
俺は腕を組んで考え込む振りをすると、わざと明るい声で言った。
「好きな歌手はドリカムで、日本史が得意で、ピアノが弾けて、首の後ろに小さなホクロがついてて、スリーサイズが上から…」
「そんなことじゃない!!」
岬の叫んだ声が、甲高い響きを孕んでいた。
真剣な眼差しで俺に訴える彼女から、目をそらさずにはいられない。
「ふざけないで答えて」いつもみたいな調子では、いられない。
俺は瞬時にそう思った。
どんなに隠し事をしたって、嘘をついたって、逆らえないのは昔と同じだ。
そんな些細な一致が、やけに嬉しかった。
そうなんだ。
俺はやっぱり……
岬が
岬は…

「俺の、全てだったんだ」

また、俺の眼前に儚く、優しい光が輝いている。
それは、切なくて、涙の出るくらい懐かしい記憶の欠片。
遥か遠く、どこまでも俺を導いてくれる。

――あと、何年かあとには私達の関係も変わっているのかな?

少女が言った。
俺の中にいる岬が、そう告げていた。
俺は、首をふった。

――変わらないものなんて、きっとないけど。
でもね、あなたがもしそれを信じてくれるなら…
待ってて、ずっとここで、待っててね――

俺は何度も頷き、そして岬はいなくなった。
あの日、最後まで笑って無茶な約束まで取りつけて去っていった彼女には、まだ会っていない。
それでもこうして、今も忘れられずにいる俺は、やはり馬鹿だった。


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