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『one's second love』
【初恋 恋愛小説】

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『one's second love〜桜集め〜』-3

「この病気の怖いところは当人にとって最も失いたくなかった記憶だけを、きれいに、消しちまうんだ。
わかるか、その怖さが。記憶ってのはその人の行動、理念、果ては人格形成にも関わる重要な器官なんだよ。いわばオマエは、岬の根底にある部分を支える柱みたいなもんだ」
波多野の言おうとしてることは何と無く分かる。
分かるだけで、その本質を理解するには俺の小さなおつむじゃ到底足りなかった。
「大切な柱を一本でもなくした建物は、いつか必ず崩れる。」

そしたら……?
その先を聞くのが怖くて、俺はただ頷いていた。
ただ、1つだけわかることがあるとしたら、俺は無力で、岬も孤独だった。
やっと会えたと思ったはずの俺たちの間には、途方もないくらいの距離があった。途方もなく巨大な溝に置き去りにされていた。
その現実に、慄然とした。

――アンタ、誰。どうして私を知ってんの?

俺の全てを否定した言葉。今でも脳裏を焼き付いて離れない。
あの日から彼女に拒否されるのが怖くて、ただ嫌われまいとして腫れ物に障るような思いで接してきた。
…いや、ただ逃げてきたのか。
逃げて逃げて逃げまくって、気付いたらもう戻れないところまで追い詰められていた。
岬と『再会』してはや一年。いまだに俺の心は晴れない。
もうすぐ、春がくるというのに……


?


かなり変な夢を見た。
意識とは裏腹に、勝手に流れ込んでは俺を混乱させる、そんな夢。

――ねえ、ここに私達の秘密基地をつくらない?

一人の女の子がそう言った。狭い公園の隅、一本の木の下に建てられた砂山を隔てて向こう側に座る少女は愉しそうに笑っている。

――なにいってんだ。秘密基地ってのはもっと人のこない隠れた場所にあるもんだろ

俺はそう言って、トンネルを掘る手を止めた。
正確には、昔の俺らしき少年が反論した。

――別に、いいのよ。私はここが気に入ったの。
だって、互いの家から近いし便利じゃない

随分と打算的な理由で決めつける少女だった。

――あなたが私に会いたくなったら、ここに来て。そうやって場所を決めておけば、安心できるでしょ

彼女の言っていたことに何の保証もなかったが、当時の俺は馬鹿だったので簡単に信用した。
いや、信じたくなったのだ。
その透き通るような声に、おどけた笑顔に、黒めがちな大きな瞳に、俺はすっかりやられていたから。
いわば一種のマインドコントロールである。
約束だよ、と彼女は呟くと次第に眠りは浅くなり、視界がぼやけていった頃には、俺は静かに目を覚ましていた。


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