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銀色に鳴く
【純愛 恋愛小説】

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銀色に鳴く(2)-2



本から眼を放した彼女の視線がとても自然に女性を思わせる物だったので、僕はおもわずドキリとした。
細く、切れ長な眼。それは宝石の様な眼を奪われるといった美しさでは無く、例えば綺麗な絵画に心を持っていかれる様な、誘惑的な美だった。
決して眼があった訳では無いのだ。彼女の視線は、窓の外、遠い空と雲を描く境界線といった様な曖昧な所へとおかれている。
虚ろで、麗しげに。

ふぅ、と彼女がため息をついた事を境に、僕と彼女の世界がシンクロを始める。互いの空域を探りながら、僕と彼女は決定的にならない何かを発信し続ける。
「その本、なんていう本?」
そう僕が言うと、彼女は充分にタイミングをはかってから、こう言った。まるで始めから台詞が決まっている舞台の俳優の様に、彼女にしては堂々とした口調であった。
あるいは彼女の世界には、そういった類の物は意味を持たないのかも知れない。形を持たない、小さな言葉で壊れてしまう様な不安定な心の森。さまよえばさまよう程に深みにはまり、抜け出そうとすればする程、彼女が見せる何らかのサインを見落とす事になる。

彼女がひとつだけ、咳をした。それは図書館にいても耳を清まさないと聞こえ無いぐらい小さな咳だった。
僕はこの時始めて、彼女が悲しんでいる事に気が付いた。

「―――教えない」

「―――ごめん」
僕は、告白を受けた何かしらの後ろめたい気持ちになって、そう言った。
「なんで、謝るの?」
だってそれは――
「私が、怒ってるから?」
「……うん」
「私、千明くんの事、好きなんだ。だからね、だから千明くんが考えてる事、ちょっとぐらいはわかるよ。いつも見てきたんだから。でね、今はまったく別の事考えてる」
「うん」
「だから、怒ってる」
「……ごめん」
彼女は、それこそ彼女にしか出来ないオリジナルの仕草で怒った顔を作って見せた。その顔を、たまらなく可愛いと思った僕は、不謹慎なのだろうか。
「ううん、いいよ」
「……うん。ごめん」
「いい、許す。その変わりに、話して?その、今考えていた事全部」

そう言って笑う彼女を見ていると、何だか自分が好きになれる。
錯覚なのだろう。
でも、心地いい。






僕が他の人に先輩との話をする時、決まって一番始めにする話が『シルバ』の事だった。この話が先輩を好きになった理由を説明するのに、一番適していたからだ。
『シルバ』。
先輩が飼うペット、つまりは犬の名前。
なんでも、子供の頃に買って貰って以来8年も生きている立派な犬だった。
犬については詳しくはわからないから説明出来ないけど、なんだかオオカミの様な風貌をした犬だ。眼が蒼く、口内が真っ赤な可愛い犬だった。全体的に毛が深くて、その色は白銀色に輝く物だった。
毛が銀色だから『シルバ』。先輩らしい、単刀なネーミングだ。
人懐っこくて、素直な良い奴で、僕の良き理解者でもある。


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