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銀色に鳴く
【純愛 恋愛小説】

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銀色に鳴く(2)-3

先輩とたまたま公園であった時に、僕はこの時始めてシルバに会った。煮えきらない夏の暑さに痺れを切らした、雨の日の事だ。
僕は雨の日の公園が好きだった。よく一人で雨の日散歩もしたし、傘もささないでベンチに2時間座っていた事もある。とにかく、雨が降りしきる寂しいながらも何か優しい、そんな公園が好きなのだ。
その日も一人で公園まで行き(その時は傘はさしていた。もうちょっと後にこの事が何かをもたらす事になるなんて、その時の僕は全く知らないでいた)一人ボーッとつったっていた。
季節は夏、そして時刻は深夜。夜が明けようともがく、そんな時分。時折、肩に当たる雨粒がヒヤリとしてとても心地よい。微かながらに猫の鳴き声がする。端っこの空が白みだしていくのが見えていた。
とても激しい雨だった。よく、バケツをひっくり返した様な雨、と言ったりするけれど、正にそんな感じ。ひっきりなし空より到来する雨粒達は自分を自己主張するみたいに強く、たくましく地面を打つ。生命のロンド。音、鳴らす自然の語りべ。
それを聴くだけでも、僕は幸せになれた。

そんな中、先輩とシルバは現れた。先輩は傘をさし、シルバは威風堂々歩いていた。
先に気が付いたのは、あるいは僕だった。しかし先輩でもあった。互いが気付いたと認識するまでに、僕らは何かしらの親密感を感じ得ていたのだった。

「あれ、珍しい。雨の日に散歩?変わってるね」
先に声をかけて来たのは、先輩の方で。声をかけて欲しかったのが、僕の方。
「ええ、好きなんです、散歩。特に雨の日が最高です」
雨がざあざあ降っている。
僕と先輩の間の空間が、雨粒が地面を打つ音で溢れかえる。
「変な子、まったく」
「否定はしませんよ」
「ほめてるんじゃ無いよ?」
「わかってますよ」
僕らには、僕らにふさわしい会話があるように思えてならない時がある。その場その場においてしっくりくる様な、そんな会話だ。例えて言うなら、この時、この瞬間の言葉はまさしくそれだったに違いない。

「傘、似合わないね」
先輩は唐突に、そう言った。
「千明くんと傘って、なんとなく相対している気がする」
そう言った先輩の右の手には赤い傘があり、左の手にはシルバへと繋がる物があった。僕が右手に持っている傘は、黒い。
「相対って」
「なんとなく、ね」


「――ただ、なんとなくそんな気がしたの」






しっかりと、僕は持っている傘を捨てた。黒い傘が地面に落ちて揺れた。
「――そんなのってひどいです」
僕は、僕自身が驚く程の大量の涙を流し、それが雨に溶けていく事を悲しいと思った。悲しいと思う事が悲しくて、涙を流し続けた。
すると先輩が――唐突に――僕を力強く抱きしめた。右手には傘、左手にはシルバへの繋がりを持って。
「そんな悲しい事、しないで」
微かにそう聞こえた。
「傘もささない貴方を見てると、何かが損なわれた様な気がする。例えば、尊厳や自由、それに関する様々な世界。そんな物が、貴方と私の間で溶けて無くなってしまう様な気がするの。
貴方と私が培った様々な秩序。あるいは仮定。または真理。そんな大層な代物でもないけれど、私と貴方には大切な物でしょう?
それらが、貴方が泣けば簡単に溶けてしまうの。氷が溶けるみたいに、確実に。でも切実に。
きっと、きっとよ?きっとそれはとても悲しいよ。類を見ないくらい、悲しい事。だから、っていうかせめて、笑って泣いて。――お願いだから、これ以上ひどい事しないで」


先輩が僕が泣いている時にかけた、唯一の言葉だった。


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