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銀色に鳴く
【純愛 恋愛小説】

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銀色に鳴く-4

「ごめん」
僕がそう口に出した言葉は、それが彼女に発せられた言葉なのか、それとも今はまだ知らない誰かに向けられた言葉なのかは、僕自身がわからない程掠れていた。 僕は二、三度同じ言葉を繰り返し発してみたのだけれど上手くいかずに、黙った。
僕は、弱いだけでなく、弱虫な人間みたいだった。
こんなにも、未熟で、情けない男を好きになった彼女が、たまらなく、たまらなく素敵に思えて僕は泣きたくなった。彼女には確固たる意思がある。僕のそれとはまったく違う力を持つそれは、とても素敵だった。
三度、彼女が頷いたのを合図に僕は涙を流し、彼女は笑った。その顔には何かを決心した様子があり、美しかった。
「じゃあ、というか、変な話ですけど、お友達になってくれませんか?」
彼女が言った言葉は、僕の胸の奥の奥までスルリと滑り込み清水の様に静かに溜まった。心臓の辺りがじわりと暖かくなった様な気がする。
僕の頬は絶えず涙が流れ続ける。純真無垢な心の吐露が、人の根源たる所をノックする。
「……ダメ、ですか…?」
彼女が、彼女自身が出した言葉に、怯えている様に見えた。僕へと向けられた二つの視線には、不確かな期待と不確実な欺瞞が入り交じって熱を持っている。
僕は、僕の持てる全ての誠意と誠心を込めて、声を発した。
「ありがとう。―――僕も、そうなりたいと思ってた」





帰り道。
紅色の空が手をふり紺色に染まった空が、もうすぐそこまで来ている。 昨日の明日が今日になって、昨日の今日が昨日になる。世界が一つ、時を刻む。
僕らは恋人たちへの、予感と、期待と、少しの不安を携えながら道を歩いた。 二人の影が長くなるにつれて沈黙も力を増し、それが親密な何かである様な気がして、僕らは笑った。
「きっと、根本的に素敵なんだね。この世界は」
「えっ?」
「だって、こうして千秋くんの隣を歩いているだけで、私は幸せになれる」
「……」
「私、私ね?今とっても幸せ。とても、幸せなんだ。好きな人の傍に居れるだけなのに」
真実とか、愛、とか。
そんな物が入り混じって、世界を成していく。
「私、田中真琴は、柊千秋くんの事が好きです。――って、何回も言うのはズルいよね。ごめんなさい。
――でもね、本当なんだから仕方が無いんだ。こんなに単純で、明確な気持ちなのに、物事は複雑。
わかってるよ?わかってる。
けどさ、だけどさ。好きなんだもん」

彼女は、それだけ言ってしまうと、後は黙った。
僕にだって、黙る事しかできなかった。


黙る事以外に、何も―――


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