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十の夜と夢の路
【悲恋 恋愛小説】

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十の夜と夢の路-4

「十夜?最近からだの具合が良くないみたいだけど……」
「ほっといてよ……」
「ねぇ、何かあったら相談して」
「何にもないよ…………」
「ほんとうに?わたしに出来ることなら何でもするから!」
「ほっといてくれって言っただろっ!」




目が覚めるとそこには、白い天井が見えた。そして鼻を突く嫌な匂い…………病院の一室というのは安易に想像できた。
昨夜、急に倒れた俺は今、病院にいるというわけだ。
俺はまだ少し痛む頭を無理やり起こし、室内を見渡す。誰も居ない、完全に隔離された個室だ。おそらく、夢路が連絡してくれたのだろう。
しばらく経つと、扉をノックする音が聞こえた。夢路だろうと予想したら、まさしくそうだった。
「十夜くん……大丈夫?」
「まだ頭は痛むけどな」
「そっか……」
夢路はそう言って小さくうつむく。
「十夜くん…………」
「ん?」
夢路はうつむいたまま言う。
「ごめんなさい……」
その言葉の意味が、俺には解らなかった。


医者が言ったことが、俺には伝わらなかった。
「急性パニック障害……ですか?」
「ええ、俗に言う『心の病』ですね」
症状としては、発作・過呼吸などがあげられる病気で、何かの拍子で突発的に起こるのだという。原因は『過去の辛い記憶』が主である。たとえば『〜〜恐怖症』が良い例だろう。昔見た怖いものをまた見ることで恐怖を覚え、ひどい場合は倒れたりするという。
俺の場合は、昨夜、夢路との会話中にそれが起きたのだ。理由は解る。夢路の言った言葉だ。
『──何でもするから──』
遠い記憶の彼方、あのときの少女が俺に言った言葉だった。長い間忘れようとしていたあの記憶のフラッシュバック。昨夜の発作は、それが原因なのだろう。


医者の話はすぐに終わった。注意された点としては、

1.過呼吸が始まったら無理に空気を吸おうとせず、深い腹式呼吸を行うこと
2.また、過呼吸がひどい場合は、ビニール袋なんかを口にあて、自分の呼気を吸い落ち着けること
3.手足が動かなくなる前に、指先などを握ったり広げたりと繰り返しておくこと

滅多に起こる症状ではないが、万が一のために薬をもらった。パキシルというキツい薬だ。


安静にしていれば、家にいてもいいという。俺はそれに従い、夢路と共に帰ることにした。
「夢路?お前のせいじゃないんだから…」
「でも、わたしがくどくど言ってたせいで、十夜くんは……」
夢路は、俺を傷つけてしまったのだと酷く落ち込んでいるようだ。俺は必死になだめようとしたが、意外と頑固者の夢路は自己嫌悪で染まっていた。


俺は、記憶の扉をこじ開けようと、深く考えた。
それが起きたのは、そう、3年前の夏だった。


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