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十の夜と夢の路
【悲恋 恋愛小説】

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十の夜と夢の路-3

夢路の両親はすでに他界しているため、彼女は一人で貧しい生活をしている。月に一回役所から支払われる補助金と夜の内職とでなんとか食いつないでいたのだ。
そんな夢路の家は古いアパート。家賃こそ安いが、いつ崩れてもおかしくないようなボロ家屋だった。
そこの大家はとても優しく理解のある人で、特別に夢路の家賃を半額にしてくれていた。
だが先日、その大家が逝去したために経営継続が困難となり、ついには退室命令まで出たという。退室後の物件はすでに決めてもらったのだが、そこに住むまでには10日間の手続きを要するというわけだ。


「迷惑なのは解るの……でも、他に行くあてがなくて…………」
夢路は今にも泣きそうな瞳でしゃべる。幸い親が不在の期間と重なるのだから、俺はなんら問題ない。だから、できるだけ優しく慰める。
「心配するな。10日間ぐらいなら面倒みてやるから」
その半瞬後、夢路はほろほろと泣き出してしまった。


困ったことに、両親の部屋は鍵がかかっていた。夢路に使わせられる部屋といったらもう、俺の部屋しか残っていない。
「とりあえず、俺はリビングのソファーで寝るから、俺の部屋で寝てくれ」
俺がそう言うと、夢路は意外にも反論してきた。
「そんな……いいよ、わたしがリビングで……」
薄々は感じていたが、こいつはどうやら根っからの頑固者らしい。だが、負けじと俺も返す。
「ソファーの方が寝やすいんだ。それに、人の好意は素直に受けとれ」
「十夜くん……」
夢路が言葉に詰まる。どうやらこの論戦は俺の勝利らしい。
「ほら、荷物持ってきてやるから」
俺はリビングに夢路の荷物を取りに行く。夢路は後ろからとことことついてくる。
「ほんとうに、ごめんね……」
背中に、弱々しい声がぶつかった。
なるべく優しく返そうとしても、
「別に、気にしてないから……」
またしても素っ気ない返事しかできない自分が、男として情けなく思えてきた。


俺は荷物を運び終え、夢路は何回も礼を言う。か弱い声に、むしろこっちが謝りたいくらいの気持ちになる。
「ほんとうにほんとうにありがとう……」
「もうわかったから……」
いい加減くどくなってきたので、やはり素っ気なく返す。だが夢路は引かずに言った。
「これから10日間、十夜くんのために何でもするから!」
その言葉を聞いた直後、
「…………っ!」
全身から何かが飛び出してきたような気持ち悪さに襲われた。全身の皮膚が粟立ち、猛烈な嫌悪感に卒倒する。手足の先が冷たく凍てつき、震え、動かせない。何者かに首を絞められたような感覚に、息が絶え絶えになり、意識がもうろうとしてきた。
「十夜くん!?」
夢路が抱きかかえてくれているようだが、その言葉すらも気分の悪いように聞こえた。
かすれた意識のなか、やっと言葉を紡げた。
苦しい…………。
気持ち悪い…………。
呼吸ができない…………。
だが、それが夢路に届いたかも怪しい。
俺は、その何者かを振り払おうと体をばたつかせるが、手足は完全に動かない。
訳も解らず、どうしようもなく、半瞬後、俺は暗闇に沈んだ。
「ねぇ十夜?」
「なぁに?」
「あたし、大きくなったら十夜のお嫁さんになる!」
「うん!じゃあぼくは、キミのお婿さんになるよ!」
「十夜、約束だよっ!」
「うん、約束しよう!」


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