投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

十の夜と夢の路
【悲恋 恋愛小説】

十の夜と夢の路の最初へ 十の夜と夢の路 0 十の夜と夢の路 2 十の夜と夢の路の最後へ

十の夜と夢の路-1

『恋』だとか、真剣に考えたことはなかった。過去に付き合った人間は何人かいるが、そいつらは付き合いはじめてから俺のつまらなさに気付き、すぐに去っていった。ほとんどの女子がそうだった。
中学生だったころは、6人と付き合った。無論、向こうからの誘いだ。俺は特に深く考えるでもなく了承し、そしてふられた。哀しくもなかった。もともと好きではなかったのだから。
そして高校生になった今、やはり告白してきた奴がいた。俺はやはり深く考えずに了承し、付き合いはじめた。どうせまたこいつもすぐに去っていくんだと考えていた。だが不思議なことにそいつは、付き合いはじめてから3か月たった今でも離れない。今までの女子ように明るくもない、いたって普通で少し気弱な女子が、俺の彼女として、こんなに長く続くものだろうか。


初夏、それはひどく憂鬱な季節の始まりだった。
夏は基本的に嫌いだ。汗はかくし教室は蒸し風呂だしで気分が悪い。なにより、夏という季節には嫌な思い出がある。
「テスト返すぞ〜」
数学の教師が教室に入ってきて、新入生学力検査テストの返却を始める。人口密度がまた増えた、蒸し風呂がさらに蒸し暑くなる。
「出席番号1番、阿部十夜!」
無駄にでかい声で俺の名を叫ぶ。不快感が絶頂なのに、追い討ちをかけるのかコイツは。
渋々立ち上がり、ソイツから答案を受け取ろうと手を伸ばしたら、
「今回は入学以来初めてのテストだから結果はまあまあだったが、唯一満点をとった奴がいたぞ!」
いきなり叫び出す。そして俺の答案を天高く掲げ、
「阿部十夜、満点!」
教室がどよめいた。まったく、迷惑な教師だ。俺は目立つことが大嫌いなんだ、早く答案をよこせ。
「おめでとう!」
無駄に笑顔な教師から答案をひったくり、席に戻る。うっとうしい。
その日、全ての教科の返却があったが、結局俺は全て満点で、周りから要らない注目を浴びることになった。


「あ、十夜くん!」
下校中、駆けてきたのは、例の3か月続いている俺の彼女だ。名前は小枕夢路。おっとりした性格で、内気な奴だ。外見的にも、おとなしそうな目や小さな口、強調しない栗色のショートヘアと、いたって普通。唯一、赤いヘアピンがアクセントとして健闘している。
そんな彼女が、目を輝かせながら言う。
「聞いたよ、全部満点だったんだ……すごいね」
「別に、授業聞いてりゃ解けるだろ」
「あは、そうだね……」
夢路はそう言って下を向く。こいつと5分以上会話が続いた試しがない。だからこいつのことは正直、名前しか知らない。……だが、一応付き合っているのだから、少しは相手を知ろうと努力もする。
「音楽とか、聴いたりするか?」
「へっ!?」
夢路は虚を突かれたようにふっと頭を上げ、間抜けな声を出した。どうやら話を聞いていなかったらしい。いや、無口な俺がそんな質問を唐突にしたのも原因か。
「あっ、音楽……だよね?」
夢路は慌てて訊き返す。俺は黙って頷いた。
夢路は最近話題のアーティストやマイナーな曲の話を聞かせてくれた。俺には解らない単語ばかりだったが、その辺りは解説してくれて、それなりに話を呑み込むことができた。
「でね、来月、そのグループのコンサートがあるんだけど……」
彼女は不意に話題を変えた。そして急に立ち止まり、まだ新しい通学鞄の中をあさりはじめた。そして、何かを取り出して、
「コンサート……一緒に行かない?」
取り出したのはコンサートの事前チケットのようだ。枚数は2枚。どうやら俺を誘うのをかなり前から決めていたようだ。チケットを購入した日付は1か月前だった。
しかし、驚いた。押しの弱い性格の夢路が、自分からコンサートに誘うなんて、到底考えられない。そしてその好意は裏切ってはならないと、直感的に感じた。
「ああ、その日は予定空いてる……」
「くふふ……じゃあ、決まりだね!」
素っ気ない俺の返事を無邪気に喜ぶ夢路。不覚にもその笑顔が眩しく輝いているように見えてしまった。恋など真剣に考えたことのなかった俺が、だ。


十の夜と夢の路の最初へ 十の夜と夢の路 0 十の夜と夢の路 2 十の夜と夢の路の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前