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十の夜と夢の路
【悲恋 恋愛小説】

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十の夜と夢の路-2

夢路と別れ、家に着いたころには陽は傾き、自室の時計は午後7時を示していた。夏は無駄に明るい。俺は太陽という存在があまり好めない。だから、物陰や薄暗い書庫なんかが大好きだ。だれもいない、涼しい、自分だけの空間。……いや、この発想は間違いだな。太陽が無いと影はできないのだから。
荷物を放り投げ制服を着替えいつものジャージ姿になる。このスタイルは、自由人を演出しているみたいで好きだ。
そして、ベッドに横になる。そういえば今日から親が出張で居ないんだ。ざっと10日間。俺も一応ある程度の飯は作れるので、親が置いていった金額は少ない。食材も冷蔵庫にそこそこあると言っていた。
今日は何を作ろう。野菜が大量にあったな、野菜炒めでも作るか。肉は……あまり好きではない。しかし豚肉が残っているから早めに食わなければならないな。
一通りメニューは決めた、が、今は何を食べる気にもならない。
やはり、俺は夢路のことを気にしているんだ。あいつの何かに惹かれはじめている。付き合っているのだから別にそれはおかしな感情ではないのだ。しかしやはり何か別の魅力を感じてしまう。だが、それは決して気分の悪いものではない。自分にとって、やがてはプラスになる、そう直感するような何か、だ。
結局、夕飯は食べなかった。根本的な食欲不振だ。このごろ体調が優れないように感じていたが、それと何か関係がありそうだ。
そんなこんなで、午後9時、やはり俺はベッドの上でジャージ姿のまま転がっていた。学生だからと勉強するわけでもなく、試験明けだからと遊ぶわけでもなく、だからと言って寝たりもせず、何も考えず呆けていた。そんな心地よさを妨害したのは、携帯電話の着信音だった。高校進学記念に買ってもらった新しいやつだ。黒いボディから、着信音はうるさく鳴り続ける。俺はその妨害を阻止すべく、真っ先にその着信を拒否する。腕を伸ばし、携帯電話のパワーボタンを押した。
だが、
「夢路か…………」
ディスプレイに残った着信履歴を見て激しく後悔した。今さっき拒否したのは夢路からの着信だったのだ。
俺はすぐにかけなおす。電子音が数回聞こえた後、夢路が出た。
『もしもし?』
「悪い、夢路だと思ってなかったから」
『いいよ、気にしないよ』
「ああ。それで?」
『あのね…………』
夢路は小さく深呼吸した後、
『十夜くんの家、行ってもいいかな?』
「…………は?」
唖然というか、訳が解らなかった。いや、親の不在は夢路にも話したのだが、なぜこの時間からなのか解らない。だが困ったことに、俺にはそれを断る理由が無いのだ。だから、こう言う。
「よく解らないけど、暗いから気をつけて来いよ」
『うん、ありがと……』


15分後、夢路はやってきた。
「お邪魔します……」
夢路が俺の家に来るのは初めてだが、学校の帰り道に通るから位置は解るのだ。
「足許、気をつけろよ、暗いから」
「はぁい……」
夢路が玄関で靴を脱ぐと、俺はリビングへ案内した。
「すごいね……綺麗だね」
「荷物、適当に置いといてくれ」
夢路は大きな鞄をソファーの隣に置き、ついでにそのソファーに腰かけた。
「くふふ……ふわふわっ」
心底楽しそうに跳び跳ねる夢路だが、とりあえずは事情を訊かなければならない。
「どうしたんだ?こんな夜中に突然」
「……うん、ごめんね……」
夢路は、肩を小さく震わせながら語った。
「家がね、なくなっちゃったんだ……」


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