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十の夜と夢の路
【悲恋 恋愛小説】

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十の夜と夢の路-15

「ありがとう、十夜くん」
空音は泣いていた。うつむいたまま、涙を流していた。そして、
「わたしも……謝らなきゃ…………」
「えっ?」
空音が放ったその言葉の意味が解らなかった。
「ごめんね、十夜くん……」


永遠にも似た数秒間、互いに膠着していた。俺は、空音が喋るまで黙っていたが、彼女もずっとうつむいたまま、喋らない。意を決して、俺は訊ねた。
「なんで、お前が謝るんだ?」
すると空音は顔を上げ、
「だって、十夜くんはわたしのこと思い出してくれたのに、わたしは言われるまで気付かなかったんだよ……それに、3年前のことも謝ってなかったし……」
3年前という単語が痛く響いた。俺が勝手に逆上したのを、空音は申し訳なく思っているのか?
「わたしが十夜くんに頼らずに流されていればよかったのに…………」
「違う!あれは俺のせいだ!お前は悪くない!」
俺は叫んだ、空音の誤解を解くために。だが、
「じゃあ、そのときのこと、全部覚えてる……?」
彼女は、泣きながら訊ねた。俺は咄嗟にこう言いたかったんだ、「ああ、覚えてる!」と。でも…………、
「…………言えないよね?」
夢路は、「ほらやっぱり」と言わんばかりに放った。


記憶が勝手に掘り出した、余分な情報。わたしは一瞬、それを疑ってしまった。

3年前、わたしは川で子犬が溺れていたのを見て十夜くんに頼った。だが既にその記憶は間違っていた。

わたしは、十夜くんに嘘を吐いた。川には何も無かったのだ。ただ、数日前の雨で水かさが増していたのは事実。
子犬などいないのに、わたしは十夜くんを呼び出した。十夜くんは辺りを探したが子犬など見つかるはずもないのだ。そして、その背後からわたしは彼を濁流へ突き落とした。

何故、そんなことを──つまり十夜くんを殺そうと思ったのか、それもまた記憶の深い深い底から見つかった。

十夜くんのことが大好きで、けれど人前でいちゃつくのは恥ずかしく、よく二人で河原の大樹の下で話した。そのとき知った、十夜くんの趣味。
『星を見るのが好きなんだ。とくに、冬の夜空』
冬の夜空には大抵、夏の星座が浮かぶ。では夏の星座にはどんなものがあっただろうかと考え、純粋だったわたしはある名案を思い付いたのだ。
『わたしの誕生日は夏なの!ふたご座よ!』
ふたご座は冬の夜空に見える。わたしは十夜くんに気に入ってもらいたくて、そんな嘘を吐いた。
けれど、頭の良い十夜くんは気付いていた、わたしの嘘を。それでもわたしは、夢見る乙女でありたかったのだ。

だからこそ、辛かった。
ふたご座は5月22日から6月21日生まれの人に該当するが、十夜くんは、その最後の日を過ぎてもプレゼントをくれなかったのだ。
いくら嘘でも、誕生日だというのだから話を合わせてくれたっていいのに、十夜くんは何もしてくれなかった。それがすごく哀しかったのだ。


後日、十夜くんのお母さんが懸賞でルビーのペンダントを当てて十夜くんに渡したのを聞いた。それは、6月21日以前のことで、それをプレゼントするくらいの時間的余裕もあったのだ。

わたしは勝手に逆上し、十夜くんを試す意味で同じペンダントを買った。それをつけて学校に行った。『どうしてくれなかったの』と暗黙の攻撃を与えるために。けれど、十夜くんは気付いてくれなかった。


だから、十夜くんを殺そうと決めた。浅はかで馬鹿で幼稚な考えだった。でも、このままでいたくなかったのだ。最後のわがままだった。


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