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十の夜と夢の路
【悲恋 恋愛小説】

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十の夜と夢の路-14

窓から射し込む眩しい太陽の光に目がくらむが、薄くまぶたを伏せて堪える。
時間が気になり教室の時計を見るがやはり6時30分のまま…………仕方なく携帯電話を取り出した。時間は、9時17分。待ち合わせまでまだすこしある。河原までは歩いても30分かからないので、ちょうど良い時間だ。
わたしは立ち上がり、落ち着きなく教室を歩いて回った。教室の床にはいろんなものが落ちている。鉛筆、消しゴム、ヘアピンにガラス辺。中には、ルビーみたいな色の真っ赤なガラス辺もあったりした。
頭が覚めて、わたしは立ち止まった。そして制服の埃を払う。付いた血が紫やら黒に変色しているが、大して気にならない……わたしは、おかしくなってしまったのか。
この暑さで頭がやられてしまったか、または情緒不安定か、血を怖がっていたはずのわたしが『気にならない』と。そう考えると、意味もなく笑えてきた。


待ち合わせの30分前に着いてしまった俺は、この6月の暑さのなか、河原をさまよっていた。どこか木陰はないものかと探したが見つからず、結局、直射日光の真下にいることになった。

夢路は、思い出の場所を指定してきたが、俺にはどうもこの河原しか思い付かなかった。だが核心はある。ここは、本当に思い出の場所だからだ。

ふと空を仰ぐ。
透き通るような青が輝いていた。


昔から空は大好きだった。
単に『綺麗だから』とかそういう理由ではなく、もっと深いところから沸き上がる気持ちなのだと思う。そして夜空もまた、星と一緒に踊っているようで好きだった。とくに、星座には興味を持ち、星を調べてはあの女の子──夢路だ──に聞かせていた。
彼女の星座はジェミニ──ふたご座で、冬の空に見える。俺が夏嫌いなのにはきっと、その星が見えなくなるのもあるのだろう。でも、彼女の誕生日は夏だった。

そんなことを考えながら空を見上げ呆けていると、
「…………十夜くん」
どこか懐かしい声が聞こえてきた。振り向くと、
「くふふっ……やっぱり十夜くんだったんだ」
「夢路…………」
愛らしい顔で微笑む夢路の姿があった。
「まだ、思い出せない?」
夢路は不意に、そんなことを訊いてきた。だが、その意図は容易に解る……俺を試しているのだ。
俺はもう一度空を見上げ、深呼吸をする。そして、力を込めて言った。
「すまなかった、朝霧空音」


いつからその名前に気付いていたのかは解らない。だがそれは確かに、記憶に残っていた。朝霧空音という名前は、意外にも足許に転がっていたのだ。だから、俺は不意に言えたんだと思う。
「……ありがとう」
夢路はうつむきながら言った。

俺は考え直してみる。
3年前の春、俺は空音と出逢い恋をした。
二人は恋人となり、ある夏の日に婚約を交わした。
その数日後、河原での事故が起き、俺は朝霧空音に逆上し、姿を消した。
そして、二人は心を閉ざした。
だが2年後、現在の高校で再会した。だが、互いに互いを覚えてはいなかった。
そして数日前、俺は発症しすっかり悲劇のヒロイン気取りになっていた。けど実際は、夢路も──空音も同じように苦しんでいたのだ。
それを俺は踏みにじり、挙げ句の果てには彼女をひどく傷つけてしまった。

さっきの謝罪は、それら全ての罪を償うための言葉だ。


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