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十の夜と夢の路
【悲恋 恋愛小説】

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十の夜と夢の路-13

『明日、会えないか?』

ふっと、力が抜け、その場にへたれこんでしまった。わたしは、もっとひどい内容だとばかり思っていた。だって、彼を刺してしまったんだから。そのため、このメールの平坦な、けれど十夜くんらしい文面を見たとき、脱力してしまったのだ。
けれど、そのメールによって勇気を得られた。わたしはこの数日間、ずっと逃げる道を選んできたのに、十夜くんは救いの道を示してくれたのだ。だからわたしは、それに精一杯応えなくてはならないのだ。

メールに返信をする、会う時間、場所などを書きこんで。それと、ごめんなさいを添えて。
場所は、……十夜くんに伝わるだろうか?

気がつくと辺りは、すでに暗くなっていた。


メールを出して30分ほど後、それが来た。
俺の黒い携帯電話が電子音を奏でる。ディスプレイには、夢路からのメールを意味する表示があった。
俺は脅えながらも、それを開いた。

『明日10時、二人の思い出の場所で待ってます。そこで、お話しましょう。そして、ごめんなさい』

正直、安心した。
俺は、断られることばかり考えていて、ひどく脅えていたのだ。だが明日、夢路と逢えることになった。それが、今の俺には、何よりの救いだった。
だが、
「思い出の場所……?」
夢路が指定した場所が、俺にはよく解らなかった。いや、記憶にはあるのだろうが、思い出せないのだ。しかし、夢路はきちんと思い出せたのだ。
だから俺は、深い記憶を探しに、目を伏せ、考えなければならなかった。


3年前、二人は愛しあっていた。そんな二人は、ある場所で幼い婚約を交わす。
それは、大きな木の下で……。


その一部分の記憶だけが、ひどく鮮明に浮かび上がってきた。そうだ、今日も通りかかったあの場所に、大きな木があったじゃないか。
「河原、か…………」
先ほどまで夢路がいた河原、つまりはそういうことなのだ。

だが、俺には一つ、思い出せないことがあった。


夢路が、俺の記憶の彼方の女の子だということは解った。だが、その女の子の本当の名前が解らない。
夢路は、どのような名前の女の子だったのだろう…………。考えれば考えるほど、それは解らなくなってくる。だから、
「明日、俺のすべてをさらけだして、謝ろう」
そう決めた。許してもらえなくても、思い出せなくても、死ぬ気で謝ろう、死ぬまで謝ろうと。


寝る支度をし、明日に備える。部屋の電気を消すと急に切なくなったが、なんとか堪え、目を瞑る。

こうして、8日目の夜は静かに幕を閉じた。
まだ睡魔が残るなか、わたしは目を覚ました。
結局、昨夜は学校の教室で寝てしまった。別に、恥ずかしくはない。こんな廃れた学校に忍び込む人なんて居ないだろう、と。現に、実際居なかったのだから良いのだ。


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