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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの恋心-1

満開の桜の下で10年ぶりに再会したヒジリは、記憶の中の彼女とは全然違っていた。
何て言うか…可愛くなった。いや、ヒジリは昔から可愛かったか……
まぁ、そんな事は置いといて…今日こうしてここで再会出来たことは、奇跡だと思う。

ヒジリは俺の隣に立って、愛しそうに桜の花を眺めている。
風に揺れる長い髪に薄ピンク色の花びらが舞い落ちて、ヒジリをこの美しい景色の中に同化させている。
(綺麗…だな……)
俺は桜を眺めるフリをしながら、実はずっとその横顔を見ていた。何故だか目が離せなくて……

(ん?制服…うちの高校のか?)
ぼーっと視線を向けていると、不意にヒジリが着ている制服が目についた。てか、今まで気付かなかったのが不思議なくらいだ。
ヒジリが着ている制服は、紛れもなく自分と同じ高校の制服だ。
(こんな目立ちそうな子…うちの学校に居たっけかな?)
そんな事を漠然と考えていたら、急にヒジリがその視線を俺へと向ける。
その瞳があまりにも真っ直ぐで、綺麗で…一瞬で、心臓が壊れんばかりに暴れ始めた。

「そういえばヒジリ…同じ高校だったんだ?」
口からは、照れ隠しみたいにとっさに言葉が出た。
我ながらかなり不自然だった様な気もするが、ヒジリには気付かれていないみたいだ。
特に気にする様子も無く、俺に屈託のない笑顔を向けている。
「うん。3年C組だよ」
言いながらヒジリは、鞄を漁って学生証を取り出した。そして、そのまま俺にそれを差し出す。

「ぇ…」
(こ、これって…)
見た瞬間、全身から血の気がサッと引くのを感じた。
「3年C組…宮木…聖?」
「う、うん。どうかした?」
(そんな…まさか……)
「い、いや…なんでもない」
そうは言ったものの、俺は相当動揺している。

“C組の宮木さん”
普通クラスとの接点が殆んど無い進学クラスに在籍している俺だって、その名前を知っている。
彼女はうちの高校の有名人だ。
そして、半端じゃなくモテている女の子…それが彼女だ。
今さらながら、『何故今まで気付かなかったのか』と自己嫌悪に浸ってしまう。
だって俺は…その“宮木さん”の事で、ずっと友人から恋愛の相談をされていたのだから……

(なんでよりによって…)
最悪…とまでは行かないが、軽い衝撃が俺を襲う。
(まさか…あれが“ヒジリ”の事だったなんて……)
今まで感じた事が無い様な胸の痛みを感じながらも、俺は聖の前で無理に平静を装った。


「光輝〜、昨日はどうしたんだよ?急にサボるだなんて、オマエらしくない!」
翌朝…昨日の胸の痛みを引きずって少し沈み気味な俺の前で、友人の田辺がかなり陽気な声を上げている。
この田辺こそ、俺に“宮木さん”の事を相談して来る張本人だ。
「あぁ、ちょっとな」
口が裂けても、その“宮木さん”と会っていたなんて事は誰にも言うつもりない。彼女に惚れている奴になら、尚更……
それ以前に、“ヒジリ”に関する事は誰にも話していない。なんとなく、誰にも教えたくなかった。
10年前の約束を、俺の友人達は誰も知らない。俺に大切な人がいる事も、誰も知らない筈だ。


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