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相沢智香の胸の内
【学園物 恋愛小説】

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相沢智香の胸の内-3

智香と亜梨沙が話をしてから数日後。
圭介は学校の帰り道、香織と別れた後、一人で見慣れた住宅街を歩いていた。
「圭介さん……」
ふいに呼び止められた圭介が振り返ると、そこには亜梨沙の姿があった。
「亜梨沙さん?」
普段会わない亜梨沙の姿になんだろうと思う圭介とは別に、亜梨沙の表情は少し険しいものだった。
そして、亜梨沙は圭介の目の前で立ち止まると「ごめんなさい」という言葉と同時に圭介の頬を引っ叩いたのだ。
「なっ……!?」
亜里沙の予想外の行動に圭介は思わず彼女を睨みつけるのだったが、亜里沙の悲しそうな表情に思わず口を閉じてしまった。
「圭介さん…あなたは自分が知らないところで身近な人を傷付けたのだから、その分幸せになって下さいね。でないと許しませんよ……」
これは完全にお門違いの行動と分かっていた亜里沙だったが、どうしても抑えきれずに圭介を引っ叩いたことを少しだけ後悔した。
これは智香の為じゃない……。
明らかに自分の傲慢さだと思う亜里沙。
こんなことをしても智香は喜びはしないだろうし、逆に悲しませてしまうだろうことも頭では理解していたのだった。
でも、亜里沙は圭介を許せなかった。
智香の気持ちに気付かず、彼女の親友と恋仲になってしまった圭介を。
亜里沙の言葉を聞いて圭介は真剣な顔になり、亜里沙を見つめた。
「……分かったよ……俺と香織が付き合うことで誰を傷付けたんなら……俺は香織とその分まで幸せになる。こんなのは唯の独善なのかも知れないけど、人を傷付けた分…俺は周りの人達に何らかの事で返したい……」
亜里沙の突然の無礼な行為に怒ることなく、それどころか真摯な顔で話す圭介に亜里沙は彼の心の一端を垣間見た気がした。
圭介の言葉を聞いた亜里沙は小さく頷くと「本当にごめんなさい」と深々と頭を下げ謝った。
そして謝られた圭介も、亜里沙の一連の行動が誰かを思っての事だと気付き、それ以上のことは何も言わなかった。
圭介が黙って亜里沙を見つめていると、彼女は僅かに微笑み「さようなら」と一言だけ残しその場を去っていった。
その場に立ち尽くしていた圭介は、亜里沙に叩かれた頬の痛みより知らないうちに誰かを傷付けてしまったことが痛かった。
本当なら仕方のないことなのかもしれない。
でも、圭介は自分が傷付けてしまったかもしれない相手が誰なのか朧気に見えてきたのだった。
「これはちゃんとけじめをつけないとな……」
そう呟く圭介の頭には一人の女の子の姿が浮かんでいた。

いつも自分の側にいて居てくれて気に掛けてくれた女の子。
どんな時も笑顔を絶やさなかった女の子。
たまに不機嫌になって自分に八つ当たりをしては返り討ちに遭い頬を膨らませて拗ねてた女の子。
そして最愛の家族であり、大事な妹……。

智香への色々な思いが脳裏に巡った圭介は深呼吸をすると、気合を入れると力強い足取りで家に向かった。
「智香、ちょっといいか?」
夕食を済ませ自室に戻り本を読んでいた智香だったが、ドアの向こうからする圭介の声に反応するとドアを開けた。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「……ん、お前とちゃんと話をしようと思って……な」
少しだけ困惑の色を見せる圭介の表情に智香はきょとんとした顔をする。
「んー、まあ、なんだ…今日、亜梨沙さんと会ったよ……」
智香はその言葉にピンとくるものがあった。
今日、家に帰ってきた圭介が左頬を赤くさせていた。
誰かに叩かれたのは明白で智香が問いただしても、圭介はバツが悪そうに笑いながら「ちょっとな」と一言だけ言うと逃げてしまっていた。
あの時、圭介が頬を腫らしていたのは亜梨沙が原因だったのかと理解した智香だった。
それと同時に亜梨沙が智香に圭介との『けじめ』をつける機会をくれたのだと思うことにした。
「待って、お兄ちゃん。智香に話をさせて」
圭介は黙って頷くと、真面目な顔で智香の話を聞くようにしてくれる。


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