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相沢智香の胸の内
【学園物 恋愛小説】

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相沢智香の胸の内-1

「はぁ……なんでお兄ちゃんと兄妹になっちゃったんだろ……」
夕暮れの街を歩きながら智香は溜息を一つ吐く。
最近、溜息の数が増えたなと思うと更に深い溜息を吐く智香だった。

溜息の原因は義兄である『相沢圭介』だ。
彼は智香がまだ幼い頃、相沢家に引き取られた。
因みに智香が見た圭介の最初の印象は「可愛い女の子」だった。
元来、人見知りで大人しい性格だった智香はそんな圭介と話すのも当初はかなり苦労していた。
そんな彼女も今では圭介と普通の兄妹の様に話し、接する様になっている。
でも、それは表面的なものだった。
二人は思春期を向え、圭介が女の子のような長かった髪を切り、そして男として成長していくのを目の当りにしていた智香は彼を見るたびに複雑な気持ちになった。
義兄の圭介は身長も伸び、態度も男のものになってはいたが、顔立ちや手足や腰の細さは未だ中性的で、どちらかと言えばちょっとキツめな美少女の様な外見だ。
そのせいもあって圭介は今現在、従姉妹の『土方奈津子』の手によって人気モデル『ケイ』としての生活も強いられているが、それを知っているのは智香を始めとする相沢家の人間と、智香の友人の一部だけだった。
その一部の友人とは『朱鷺塚香織』であり、今は圭介の彼女でもある。
智香としては自分の兄と親友の幸せを素直に祝福したかったが、心の何処かに引っ掛かりがあり、今のところ表面上で二人を祝福するのが精一杯だった。

そんな智香がいろいろと思い悩みながら歩いていると、不意に声を掛けられた。
智香が慌てて声のする方へと振り返るとそこには意外な人が立っていた。
そこに居たのは『片桐亜梨沙』だった。
彼女とは数回の面識しかなかったが、ケイと瓜二つな外見がとても印象的で最初に出会った時、智香はとても驚き慌てた事を今でも覚えていた。
「智香さん、こんにちは。今、学校の帰り?」
「はい。亜梨沙さんは……どちらかへお出掛けですか?」
同じ顔のケイとはまた違う微笑みを見せる亜梨沙の姿が着物である事に気付いた智香は作り笑いをしながら問い掛けた。
「ああ、これね。今日はちょっとお華の先生の所へ行ってたのよ。それにしても智香さん、貴女大丈夫? かなり思い詰めた顔をして溜息を吐いてたわよ」
どうやら見られてしまったらしい。
どうやって誤魔化そうかと考え始める智香に亜梨沙は先に話し掛ける。
「良かったら少し時間を頂ける? 今思えば私、智香さんとちゃんとお話をした事がないのよね」
笑顔の亜梨沙に智香は素直に頷いた。

そんな会話があってから数分後。
二人は近くにあった喫茶店にいた。
「それで、智香さんは何を悩んでいるのかしら?」
先に口を開いたのは亜梨沙の方だった。
智香は目の前にあるココアの湯気を見ながらポツリと呟いた。
「智香は……ひょっとしたらおかしいのかも……」
思い詰める智香を見つめる亜梨沙は黙って智香の言葉に耳を傾ける。
「……義理の兄妹だからって、兄を好きになるのっておかしいですよね?」
智香はぽつりと呟く。
「そうかしら? 私は男の兄弟がいないから分からないけど、でも身内の男性が魅力的ならそう思ってしまうこともあるんじゃないかしら」
「そうでしょうか?」
「私はモラリストでもなければ聖人君子でもないからそう思うわね。でも、兄妹だからこそ好きな気持ちが打ち明けられなくてとても苦しい思いをしているのでしょう?」
無言のまま智香は頷く。
「じゃあ、その思いをどうするかが問題よね……」
亜梨沙はそう呟くと自分の手元にある紅茶に口を付ける。
それと同時に智香は今日、何度目なのか分からない溜息を吐く。


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