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相沢智香の胸の内
【学園物 恋愛小説】

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相沢智香の胸の内-2

「諦める?」
「……それしかないですよね。だって、お兄ちゃんは血が繋がっていないとはいえ兄妹だし…それに、お兄ちゃんの彼女は香織ちゃんだから……」
「……辛いわね」
亜梨沙は以前、ケイの代役として撮影をした際、智香と香織が仲良くしている光景を見ていたので、彼女達の仲の良さはそれなりに理解はしていた。
落ち込む智香をなんとかしてあげたいとは思う亜梨沙だが、所詮は第三者である。
出来る事などかなり限られていることも理解しているし、無責任な発言は意味がない事も理解していた。
「……努力します……」
今にも掻き消えそうな声で智香は言った。
「お兄ちゃんと香織ちゃんが幸せなら、智香は二人を心から祝福出来るように努力します……」
それは智香の今できる精一杯の強がりだった。

それから暫し後、智香と亜梨沙は喫茶店を出ると近くの公園まで歩いていた。
「無理…してない?」亜梨沙の問いかけに智香は笑顔で答える。
「……無理、ですか……してますよ……だって……」
智香の瞳から一粒の涙が零れ落ちる。
「だって…智香はちっちゃい頃からお兄ちゃんのことが……すき…だったんだもん……」
感情を抑え切れなくなった智香はとうとう泣きだしてしまった。
「智香は、お兄ちゃんのことが誰よりも大好きっ! 誰にも渡したくなかったよ……でも、でも…お兄ちゃんの彼女になった…香織ちゃんも大事な友達なの……」
涙ながらに話す智香。
「お兄ちゃんも、香織ちゃんも……智香の大事な、大事な人なの……」
血こそ繋がっていないものの兄妹であることの現実。
兄妹だからこそ伝えられない想い。
そして、その想い人の恋人は自分の親友であることにこの小さな女の子はどれだけ胸を痛めたのだろうと思うと亜梨沙はやり切れない気持ちになり、いつしか智香を抱き締めていた。
「……亜梨沙さん……?」
「いいのよ…お泣きなさい。今の私にはこれくらいの事しか出来ないけどね……」
そう智香に話し掛けると亜梨沙は優しく微笑んだ。
圭介のもう一つの顔であるケイと瓜二つの女の子。
亜梨沙の笑顔を見た智香はその胸に顔を埋めると、茜色に染まる公園で声を殺しながら静かに泣いたのだった。

「……落ち着いた?」
「ご、ごめんなさいっ。なんか亜梨沙さんに迷惑をかけちゃったみたいで……」
「いいのよ。私は智香ちゃんのことをもう一人の妹みたいに思ってるから」
亜梨沙はそう言いながらハンカチを取り出すと、智香の涙を拭った。
「えへへ…亜梨沙さん、本当のお姉ちゃんみたいです」
「私はそれでも良いわよ」
智香の柔らかい髪を撫でながら亜梨沙は智香の額に軽くキスをする。
「あっ、亜梨沙さんっ!?」
「ふふっ、頑張れるおまじないよ。いつもは妹の麻里絵にしてあげてるんだけどね。嫌だったらごめんなさいね」
微笑む亜梨沙に対し、智香の顔は驚きの表情を隠せないながらも勢い良く首を横に振った。
そして、夕日に染められた顔が紅くなり熱くなるのを智香は感じた。
「智香ちゃんの決めたことに私は口を出すつもりはないけど、応援してるから頑張ってね」
亜梨沙の言葉に智香は力強く「はいっ」と答えた。

「じゃあ、智香はこっちですから」
公園からの帰り道の十字路で智香は亜梨沙にお辞儀をすると駆け足で家に向かった。
その後ろ姿を亜梨沙は姿が見えなくなるまで見送る。
智香には幸せになって欲しい……。
心から願う亜梨沙だった。


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