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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの絆<前編>-9

「いいよ」
俺は、サラッと返事をした。
水沢が介入して来ない限り、宮木さんを丸め込む方法はいくらでも有る。
「へ?今…なんて言ったの?」
「『いいよ』って言ったけど?」
「ほ、本当に良いの?」
「うん」
俺が答えた途端、宮木さんの表情がぱぁっと明るくなった。
でも宮木さんには悪いけど、物事は俺の都合が良い方向に流れてるんだ。

「じゃぁ、図書室にでも行く?あっ、この教室でも良いけど?」
「へ?」
「まぁ、うちのクラスじゃなくても場所なら沢山有るしね!」
俺は唖然としている宮木さんをよそに、淡々と話を進めた。
少し離れた所では水沢が、目を丸くしてあんぐりと口を開けている。

宮木さんは違う意味で言ったんだろうけど、俺としては場所を変える口実が出来て好都合だった。
光輝に俺達の仲を見せ付ける為に宮木さんをうちのクラスに呼んでいた筈なのに、最近の光輝はよく宮木さんに話しかけるから…かなり不愉快だったんだよね。
ちょうど場所を変えるタイミングを探していたから、今回ばかりは、水沢が要らぬ知恵を働かせてくれて良かったよ。
残念だったね、水沢。


「松田っ!アンタ、聖を苦しめて面白いの?」
そろそろ来るだろうなと思っていた頃、案の定水沢が、俺の元へ怒鳴り込みにやって来た。
その理由は明らか…Sクラスに来る機会が無くなった宮木さんが、日に日に元気が無くなって来ているからだ。
そして、何度も何度も溜め息を吐いている。
まぁ、流石の俺もかなり心痛いけどさ…だからって譲るワケには行かないんだよね。

「水沢には関係ないよ」
「アンタねぇ、こんなこと続けて、聖が自分のこと好きになるとでも思ってんの?」
「どうだろうね。でも、少なくとも光輝には取られない」
「そんなの、片意地張ってるだけじゃない」
「それでも構わないよ」
こんなことして何の意味が有るのか…正直俺にだって、よく分からなくなる時がある。
好きな人にツラい思いをさせてまで手に入れた関係に、何の意味が有るんだろうってさ。
でも、水沢には言われたくない。
水沢には、俺の気持ちなんか分かる筈がないんだから。


「はぁぁ…」
今日もまた、宮木さんは憂鬱そうに溜め息を漏らす。
その裏にある光輝への想いに気付いているからこそ、面白くないと感じてしまう。
「宮木さん、また溜め息?」
もう宮木さんの溜め息は聞きたくない。ハッキリ言って、かなり不快だ。
「ごめんね、気にしないで」
「気にしないでって…そんなに連発されたら、嫌でも気になるよ」
毎度毎度…目の前で溜め息を吐かれて、気にしないでなんていられる訳がない。
しかも、その理由が分かっているから尚更……

「な〜にを気にするって?」
「絢音!」
俺達の間に重苦しい沈黙が流れる中、急に不気味な程に明るい声が降ってきた。
「……何しに来たの?」
意識しなくても、棘のある言い方になってしまう。
でも水沢は、そんな俺には目もくれず、宮木さんにこれまた不気味な程の笑顔を向けている。
(水沢め…また何か企んでんのか?)
「聖の事、探してたんだよね〜!いやぁ、早いとこ見付かって良かったわ!」
「ん?何か用だった?」
「そうなんだよね〜!」
水沢がチラッと、意味深な視線を俺へ向ける。
そして、宮木さんの耳元でヒソヒソと何かを言ったと思った途端、急に宮木さんが教室から駆け出して行った。


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