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透明な砂時計
【純愛 恋愛小説】

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透明な砂時計-5

「へぇ…じゃ、じゃあ、好きな食べ物は?」
「食べ物?」
「うん。好きな食べ物」
「そうだなぁ…」
敵わないな、と僕は思う。 彼女のだす問は全てが愛しおしく思えるのだ。僕は真剣に考えた末にこう答えた。
「特には無いかな。強いてあげる程、強烈に好きな食べ物は無い様な気がする」
「無いの?」
「うん、無いかな。たぶん僕は、そういったつまらない人間なんだよ」
「それはつまり?」
「うん、つまりね。 普通なんだよ、僕って。取り立てて特長もないし特技みたいな物も無い。平凡とか、平均とかが僕に似つかわしい」
「そうかな?」
「そうだよ。僕には自慢する所なんて無いもの」
「そんな事無いと思いますよ」
彼女はそう言った。
「そう言って貰えると、嬉しいね」
なにを言っているんだ、僕は。

「じゃあ渡辺君は、なぜ掃除をしているの?」
「掃除をしている理由?」
彼女は気持ち良く頷いた。 とても素敵な仕草だった。
「綺麗好き、だから」
僕は嘘をついた。それは簡単に見破られる事になるのだけれど。
「うそ」
「うそじゃない。半分は本当さ」
「じゃあもう半分は?」
素直に言う事が一番良いのかもしれなかった。

「君に会いたいから」
彼女はハッとした様に驚き顔を作ってから、赤くなった。
僕も赤くなった。




「じゃ、じゃあ、最後の質問です。渡辺君は、好きな人がいますか?」
彼女は慌てて話をすり変える様にそう言った。そして質問をした事を後悔した様に気まずそうな顔をした。
――ほんの一瞬。たった一瞬だけど、僕は全てを伝えたくなった。 けれどその声は喉の奥の方までは勢い良く登って来たのだけれど、音には成らずに消えていった。
「――今はいない、かな。そうだな、今はいないよ」
普通に話せていたかが不安な程僕の声は震えていたと思う。 顔の熱は冷めるどころか上がりつつある。
「本当に…?良かったぁ…」
良かった――?
彼女は今、良かったって言ったのか?
「それはつまり――」
「あぁ!ごめんなさい!そろそろ帰らなきゃ!」
彼女はそう言って急いで教室から出ていった。

残された僕は、その時始めて机がかなり前に並べ終えてる事に気が付いた。




次の日も、僕と彼女は掃除をしながら話をした。
昨日の事なんか忘れているかの様に彼女は自然だった。
だから僕も、自然だった。
こんな風に僕らの距離が急速に縮まる事は無く、カタツムリも欠伸をする程素敵な日々が過ぎていったんだ。


◆ ◆ ◆

夏休みが終わりを告げる頃に僕らの砂時計は動き始めた。 それはたっぷりと10分間を測り、綺麗に動くのを止めた。
だからこれからの話は、たった10分間の出来事である。 話は長くなるけど10分間だ。


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