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「とある日の保健室」
【学園物 恋愛小説】

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「とある日の保健室その5」-3

「ぷはっ!」
「はっ……!」
お互いの口から一筋の糸がひかれた。光の糸。
「お前、馬鹿か!いきなりなにをするんだ!」
達也が口元を押さえながら叫んだ。
でも、そんなの気にならない。
「嫌だよぉ……もっとしたいよぉ……達也ぁ」
またも私は達也の唇を狙う。今度は当たらなかった。達也が私の肩を掴んで止めたから。
「なんで……?いいでしょ、達也……?キス、しようよ……」
「するか、馬鹿が!それに、なんではこっちの台詞だ!」
「ふぇ……?なにかおかしな事、あった?」
「あるだろ!」
戸惑いながら達也は続けた。
「お、お前は俺が嫌いなんだろ!?なのに、なんでこんな事するんだ!?」
そんなの決まってる。考えるまでもない。
「好き、だもん……」
もう、達也の事しか考えられない。 達也しか見えない。他には要らない、達也がいれば。
これって“恋”だよね?
「は、はぁ!?意味分かんねぇ!最初は嫌いなんて言っておきながら……」
「今は違うもん!」
私の叫びが達也の言葉を遮る。さらに私は続けた。
「嫌いなんかじゃないもん……大好きだもん!私、なにかいけない事してる?好きな人に好きって言っちゃ駄目なの?好きな人に触れたいって思っちゃ駄目なの?」
「でも……男は獣、なんだろ?」
完全に動揺しきった達也は、私から視線を逸らしながら言った。
そう言えばそんな事も言ったっけ。
「違う」
「なにが」
「達也は違う」
「なんでそんな事……」
達也になら、言ったっていい。達也の事、好きだから。
「私ね……男性恐怖症なんだ。少しでも男の人に触れるたり触れられたりすると、身体が震えるんだよ」
「まさか……」
達也は私に視線を戻した。その体勢のまま、硬まっている。
「そう。初めて達也が私に触れたのって、保健室だったよね。あの時は混乱してたから分からなかったけど……触れられて身体が震えなかったのは、達也が初めてだった」
そうこうしてる内に、また唇を狙った。ゆっくりと近付ける。達也は、躱さず受け止めてくれた。
「ん……」
柔らかい、優しい、達也へのキス。達也は逃げない。むしろ私の背中に手を回してくる。
「達也……んむ」
ずっとこんな時間が続けばいいと思った。
私が達也の傍にいて、達也も私の傍にいる。2人はずっと一緒なんだ。恋人同士なんだ……。
「んむぅ……私は、達也の事、気になった。こんな体質のせいで、ろくに彼氏も出来なかった。達也ならきっと、私を変えてくれる……そう思った。んぁ……」
今度は深く口付け。ついでにおずおずとだけど、達也の舌に私の舌を絡めた。これは2度目かな。
「んぅ……はふぅ……だから、達也の彼女になりたいって、そう思ってる自分がどこかにいた。認めたくない自分が全面的に否定してたけど。 ……ふぁ!」
達也はさっきから黙ってキスをしてくれる。
なんでかな?
好きになってくれたのかな?
「達也……なにか言ってよ」
「優花……俺はお前の事、嫌いじゃない」
瞬間、私は歓喜する、
「でも、好きってわけでもない」
と同時に、少し沈む。
「じゃあ、どう思ってるの……?」
期待を込めた眼で達也を見る。達也の顔は、真剣そのもの。
「かなり……同情してる」
真っ直ぐに私を見つめながら、達也は言った。
同情って、なんだろう。
「同情……?」
「ああ。そんな体質のせいで、過去になにかあったんじゃないか?」
男性恐怖症っていう体質のせいでなにかあったんじゃないか……達也は鋭いなぁ。
「……あったよ」
嫌な事がまざまざと脳内に蘇る。
すっごく嫌で、陰湿で、最低な過去。
達也なら、理解してくれるよね?
「こんな体質になっちゃったのは、中学生から。男子に触れると身体が震える。酷い時は悲鳴をあげちゃうぐらい。だんだん男子の方から離れていった……。でも、私は別に困らなかった。少なくとも、女子は私の味方だったから。味方がいるだけで、なにも怖くなくなるんだよね」
「それは分かるな」
同意してくれた。


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