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「とある日の保健室」
【学園物 恋愛小説】

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「とある日の保健室最終話」-5

「食うか?」
堪え切れず、俺は優花を促した。
「う、うん!……今日のお弁当ね、多分だけど、おいしく出来てると思うんだ」
イスに着きながら、優花は自信あり気に言った。
「そうかい」
一言言って、口におかずの卵焼きを放り込む。……む、美味いな。いい感じの味付けだ。俺の好みだな。
「ど、どかな?美味しい?」
「ああ、美味いよ、前よりも」
「え、えへへ……。た、達也」
「ん?」
「は、はい、あーん……」
優花は自らの弁当箱から適当にチョイスしたおかずを箸で摘み、俺に食べさせようと口元に運んだ。これはあれだ。恋人同士がやるような、あれだ。
「おい、恥ずかしいぞ」
「恥ずかしい事なんてないでしょ……二人っきりなんだから。ほら、食べて……」
「ったく……むぐっ!」
突っ込みすぎ!奥に突っ込みすぎだよ!吐いちゃう!そのままさらに突っ込んだら、吐いちゃう!
「……どう?」
痛いです、苦しいです。
「…………」
とは言えず、黙って口を動かした。うん、なかなか。
「あのさ……明日から休みじゃない?」
口の中の不快感をジュースで誤魔化している時、優花が口を開いた。
「あ?ああ」
俺は素っ気なく答える。
優花は続けた。
「なんにも予定とか……」
「あるな」
今日から『総本山』に向かわないといけないからな。
「え……あ……そう、なんだ。……じゃ、日曜日は……」
「土日は両方とも駄目なんだ」
「……そう」
心なしか残念そうな顔をする優花。 俺にはそんな顔をする理由が分からないが。
「じゃ……今、ここで……」
「ん?」
優花はゆっくりと顔を近付けてくる。まさか、とは思うんだが……
「んむ……」
やはりか。キスしてやがる。俺は拒まなかった。だって、付き合うって言ったから。男なら自分の発言に責任を持て、偉大なる先人(偉大ではないが、俺の親父)のお言葉だ。
「っはぁ……今日さ、帰り、一緒に帰れる?」
俺の唇から己のそれを離しながら、優花が訊いてきた。それも無理、と言うと、優花は悲しそうな表情になる。
「なにか予定があるの?」
「ま、な」
「じゃあ……次に逢うのは月曜日なんだね……」
「……帰ってこれたら、な」
「え?」
「なんでもない」



……遅いよ、達也……
学校が終わったあと、早々に自宅へ帰り、準備(簡単に替えの服とか……ナイフ、ランプかば〜んに、詰め込んで〜)をしたのち、鷹須賀崎駅にダッシュで行くと、入口付近で涼香を見つけた。
「悪いな。さ、行くか」
まずは切符を買わねばな。
……はい、これ……
「え?」
涼香が指差した場所、そこには切符があった。それは……確かに俺たちが向かう『総本山』の最寄りの駅行きだった。 どうやって買ったんだ?
……その辺の奴に憑いて買わせた。ここに放置させてからすぐに離れたから、その女に障害はないよ……
そういう問題じゃないんだがなぁ……。ま、いいか。切符買う金が節約出来たし。
「せめて向こうに着くまで、おとなしくしててくれよ?」
……ちっ……
舌打ちすんなよ。



保健室編 完


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