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「とある日の保健室」
【学園物 恋愛小説】

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「とある日の保健室その5」-4

あ、そう言えば……
「達也もいじめられてたんだっけ」
「ぐ……やっぱり分かってたか」
「うん。保健室での狼狽えぶりを見てたらね」
「ま、そうだよな……ん?今、達也“も”って言ったか?」
殊更のように達也は私に尋ねた。私は正直に答える。
「うん。言ったよ」
「じゃあ、過去の嫌な事って言うのは……」
「いじめだよ。私もいじめられてたんだ。……陰湿だったなぁ。上履きに落書きされたり、ノートとか教科書に落書きされたり……。全部男子が犯人だって分かったけど。それからはよりいっそう女子が私を守ってくれた。でも、ある日の事だった。私の1番の親友の恵理が、誰かに襲われて……全治3ヶ月の大怪我をした。学校側の調査だと、犯人はうちのクラスの男子だった……。不祥事を発覚させたくない校長は、恵理は他校の生徒に襲われた、だなんて苦しい言い訳をした。私が動いて、事件を発覚させてやった。その男子は強制転校。校長も責任をとってやめた」
そこまで話して一息吐く。達也は真剣に聞いてくれている。やっぱり、経験者は違う。
「それで?なにがどうなったんだ?」
先を促す達也に、私は思い出しながら語り出す。あの、最低としか言い様のない、真実を。
「私の味方はいなくなっちゃった。恵理が襲われた事で、改めて思い知ったんだと思う、男子と女子の力の差を。私はどこでもいつも1人きり。朝も、給食の時間も、部活の時間も……。唯一頼れる存在の教師に至っては、私を恨む始末。校長をやめさせた事で、いろいろ面倒な事になったらしいの。事件の発覚とかのマスコミに対する扱いとかね。……馬鹿だよね。恵理が喋れるようになったら、どのみちバレるのに」
私は遠い眼をした。達也は変わらず真剣だ。そんなふうに聞いてもらえて、本当に嬉しい。
「そんな毎日を繰り返してるとさ、嫌になって死にたくなったんだ。死んだら楽になれる……なら、いっその事……って」
「でも、そうしなかった。なんでだ?」
責めるような口調じゃない。むしろ優しいものだ。私の乱れかけた心が少し和んだ。本当に同情なんだ、と少し残念に思ったのは無視する。
「恵理のおかげなんだ。最後に恵理には逢っておこうと思って、入院先に行った。そしたら、恵理はリハビリをして頑張ってた。その姿を見てたら、急に私も頑張らなきゃって思えて……ひたすら頑張った。男子からのいじめも、女子や教師からの無視も必死に耐えた。そして恵理の退院。その日からは正に天国。昨日までの地獄なんかとは違う、本当の学生生活。嬉しかった。本当に良かったって、今でも思ってる」
あれ?達也が笑ってる。なんでだろ?
「良かったじゃないか。ひとまずそのいじめは終わったわけだろ?その恵理とかいう人によって」
ああ。そっか。達也は知ってるから。いじめがどれだけ酷いものか、知ってるからだ。だから私の話を聞いて笑ってるんだ。
「うん。いじめは、ね」
少々ながら意味ありげな言い方で顔を俯かせた私は、すぐに顔を達也に向き直す。達也がなにか言ったからだ。
「……男性恐怖症、か」
やっぱり鋭い。
「うん。男性恐怖症に磨きがかかっちゃった……。女子校って進路もあったけど、それじゃあ負けた気がするから、敢えて共学にしたの。その選択は間違ってなかったけど」
「え?」
「だって、達也に逢えたもん!」
笑った。自分の中ではとびっきりの笑顔で。達也もそれにつられたみたい。
……キス、したいな。
「ねぇ……いいでしょ?」
誘う。達也の肩に手を掛け、顔を近付ける。もっと……。
あと10cm……
「やめい」
のところで、達也の制止がかかる。
「むぅ……達也ぁ……欲しい、よぉ……んむぅ……」
でも、やっぱり優しいんだ、達也は。なにも言わずにキスしてくれる。凄く嬉しかった。
「彼女にして……達也……」
「か、彼女かぁ……。ま、しばらく付き合うか」
たとえそれが同情でも。
私は嬉しかった。


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