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「とある日の保健室」
【学園物 恋愛小説】

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「とある日の保健室その4」-4

「行って来ます……」
だるい。
学校に行きたくない。
歩きたくない。
立ち上がりたくない。
達也に、逢いたくない。
「優花?」
玄関で靴を履いた私に、廊下を進んで近寄る者がいる。
湿り気を帯びたその髪。どうやら朝風呂のようだ、バスタオル一枚、羽織っている。
これこそが我が姉・星野優香(ゆか)だ。現在は大学生なんかやっており、今日は午後から家を出るとか。
「なに……?」
「いんや、ちょっと気になったからさぁ……恋してる?」
私の目は、驚きに見開く。
「し、してないわよ!誰が恋なんか……」
「ん〜……でもさ、いつもと様子が違ったから、恋でもしてるのかなって」
「馬っ鹿じゃないの!」
そう言い放って、ドアノブに手をかける。
すると姉は、
「1つ言っとくわよ。恋愛ってのは、後悔しないように恋愛するのがコツよ」
にっこりと笑顔を見せて、それから誇らしげに胸を張った。妹の私よりもないくせに。
「意味分かんない!」
乱暴にドアを閉める。最後に見えた優香の顔は、まだ笑っていた。
私は恋をしている……のかな。達也に対してのこの感情がそれなのかな。
分からない。
でも、誰にも渡したくないって、私は思ってる。達也は私だけ見てれば、それだけでいいんだ。他の女なんかに振り向いちゃ駄目、ううん、嫌だ。
これって……恋、じゃないの?
違う違う違う違う違う!
私はあいつの事をどう思ってる?
強姦魔。
これよ!変態だと思ってるのよ!
そうか!分かった!私のこの感情の正体が!
達也の事をよく知らない女があいつの彼女になったら、その人は不幸になる。きっと強姦される。
そんな犠牲者を出さない為に……私が動かなきゃいけないんだ。私が自らを犠牲にするしかないんだ。
私が達也の彼女にならなきゃいけないんだ!
そうだったんだ……なんでこんな単純な事に気付かなかったのかしら。
まあいい。
とにかく、早速保健室に行かないと!



「なに、やってるんですか……?」
私は俄かにその光景を信じられなかった。だってそうでしょう?
熟睡している達也に、双葉先生がキスしているなんて……。
「あ……!星野さん!や、これは……!」
ぱっと達也から唇を放した双葉先生は、顔を真っ赤にして弁解を図ろうとしていた。
無駄だろうに。
こっちは決定的瞬間を見ているのだ。今更、なにを訊いたところで……。
「えっと、ね……」
「もういいです。達也、連れていっても構いませんよね?」
そう言って、私が達也に手を伸ばすと、
「駄目!」
その手が、別の手にはたかれた。
誰の手かは考えるまでもない、双葉先生のだ。
「……駄目?」
私は尚も達也に手を伸ばそうとしたが、それはやはりはたかれた。
「なんでですか?達也を返してください!」
「譲らない……」
「え……?」
「例え生徒のあなただろうと、容赦しない!橘君は、誰にも譲らない!」
分からない。
なんで?
なんでこの人は、私から達也を奪うの?
「やだ!返して!達也を返して!」
興奮気味に、私は訴えた。
達也が奪われる。
私じゃない、誰かのところに行ってしまう……。


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