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「とある日の保健室」
【学園物 恋愛小説】

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「とある日の保健室その4」-5

「返して?違う!橘君はあなたの彼氏でもなんでもない!橘君がどれだけあなたを迷惑がっていたか、知ってるの?」
「迷……惑……」
嘘だ。
信じない。
そりゃ、酷い事したし、怒らせたし……あれ?私ってば、今思えば迷惑しかかけてない?
私の存在そのものが、達也にとって迷惑になってない?
「今頃気付いたって、もう遅いのよ!さあ、出てって!」
「……やだ」
「出て行きなさい!」
「嫌だ!」
私の目からは涙が零れていた。
こんなオバサンに、達也は渡したくない。
いや、他の誰にだって渡したくない。
達也、あなたの声を聞かせて。
あなたが言うなら、きっと納得出来る。
達也、目を覚まして……。



「う?」
なんだか周りが騒がしいなぁ……。誰だよ、俺の安眠を妨害する奴は。
まず最初に視界に入ったのは、何故か俺をしっかり抱き締めている双葉先生。
次に何故か泣いている優花。あ、昨日言い過ぎた件か?
とりあえず、身を起こさねば。
「双葉先生、放してもらえませんか?」
「た……橘君、目が覚めたのね。安心して?なにも悪いようにはしないから」
双葉先生は赤面していた。おそらくそれは、なんらかの興奮によるもの。
それよりも双葉先生が最後に言った事、微妙に分からない。
「悪いようにはしないからって……」
「達也!」
声のした方を見やれば、さっきまで泣き崩れていた優花が、熱い眼差しで俺を見つめていた。泣き痕が少々気になる。
「ああ……優花。昨日は悪かったな。俺、言い過ぎたよ」
昨日とは違って、俺は頭を充分すぎるほどに冷やした。悪かった、と思うまでに。だから俺は謝りたい、とも思った。
「あ……ううん、私こそ、馬鹿とか言っちゃって、ごめんなさい……」
「よし。じゃあ、仲直りな」
「う……うん」
意外とあっさり仲直り出来たな。優花の様子がちょっと気になるが、まあいいか。
「橘君……」
あれ?双葉先生も俺を熱い眼差しで見つめているぞ。俺が寝ている間に、なにかあったのか?
「あの……俺、もういいんで、それじゃ」
と、先生の手から離れ、立ち上がり、優花と一緒に保健室を去ろうとした時、
「橘君!」
双葉先生は俺の肩を掴み、保健室からの退出を止めた。
俺が何事かと振り向くと、
「放してください」
優花がその手を払い、次いで俺の肩に自分の手をやる。さ、行こうか、と言わんばかりに。
「優花……。っと、双葉先生……」
「達也、行こ」
「分かったよ。……それじゃ、また」
双葉先生に軽く手を上げ、俺は保健室をあとにした。
その時見てしまった双葉先生の顔は、なにか言いたげだったが、優花が急かすから、俺はまともに接する事が出来なかった。


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