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僕とお姉様
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僕とお姉様〜僕の失敗とお姉様の決心〜-1

「蓋をしてやる」

酔っ払ったお姉様はそう言って僕にキスをした。
唇に唇が重なった不思議な感覚。目を瞑るどころか、瞬き一つできないくらい全身は硬直状態。

「うはは、おやすみぃ〜」

その後お姉様は引力に従うように倒れ込んで爆睡。僕は余韻に浸る余裕もなく、ただの置物と化していた。

しばらくしてまず働きだしたのは嗅覚。
部屋の異臭に気が付くと、徐々に思考回路も動き始める。のそのそと立ち上がって窓を開け、汚物の入ったゴミ箱を洗面所できれいに洗い、湿らせたタオルを手に部屋に戻って、まだ汚れたままのお姉様の口をそっと拭いた。
吐いてスッキリしたのか寝顔はうっすら笑っている。ほんと、人の気も知らないで…
ファーストキスってもっと特別な、夢のある物だと思ってたんだよ。どうせなら僕の方からしたかったし、更に言うなら両思いの状態になってからのが良かった。
それがまさか酔った勢いのしかも吐いた直後の口に蓋代わりでされるなんて予定外もいいとこだ。

布団の上に落ちたままのプリクラを拾って改めてそれを眺めた。女子高生のコスプレ姿は確かに可愛いけど正直無理がある。
呆れてるけど、しばらく目が離せなかった。
実際高校生だった時もこんな風に友達と笑っていたんだろうな。毎日楽しく過ごしてる姿が容易に想像できる。
でも想像は想像。
僕はその頃のお姉様を知らないし、会える筈もない。
その頃を知らないと言うのは少し語弊があるか。
正しくは、何も知らないだ。
一緒の家で寝食共にするようになって随分経つのに未だに行われない自己紹介。名前と年しか知らなくても不便はないけどやっぱり知りたい…

「…あれ?」

よく考えたら、それはお互い様じゃないか?
僕も名前と年しか教えてない。プロフィール一切何も。
僕は知りたくても聞くタイミングが掴めないだけ。
お姉様は?
知りたいけど聞けないのか、知りたくないから聞かないのか。
そもそも、知らないと知られてないのではどっちが悲しいんだろう。
僕はきっと、後者だ。
昨日は震えて触れられなかった髪に、今日はごく自然に手を添える事ができた。形を確かめるように繰り返し撫でても全く気付かないくらい深い眠りについてる。
深酒をしても記憶を失わないのは初対面の時に確認済み。目が覚めた時、この人は僕に何て言うつもりだろう。
謝られるのも言い訳されるのも嫌だ。記憶がないフリはもっと。
だから僕が言わなきゃ。お姉様が後で気にしなくて済むような言葉を考えておかないと…



結局一睡もできずに迎えた朝。
朝食を簡単に済ませて部屋で身支度をしている最中にお姉様は目を覚ました。

「…おはよ」

ベッドから寝起き特有のかすれた声がする。登校前に声をかけられるのが意外すぎて一瞬動揺したが、すぐに平常心モードに切り替えた。

「おはよ」
「…」
「…」

あぁ、嫌な無言だ。
この様子だと完璧覚えてるな。しかも気にしてると見た。

「山田…、あの」
「起きるの早いじゃん」
「あ、うん」
「どうやって帰ってきたの?あんなに酔っ払ってて」
「え、あ、と、友達!友達に、送ってもらった」
「車は?」
「その子のうちに置かせてもらってるから、後で取りに行こうかと…」
「歩いて?」
「うん、そんなに遠くないし」
「今からなら自転車の後ろに乗せてってあげるけど」
「いや、いいよ!悪いし遅刻したら困るし!!」
「…そう」

断り方が必死だ。いつもなら自分から乗せて行けって言い出すのに。


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