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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの嫉妬-6

「はぁ…良かった」
教室に入った途端、急に肩の力が抜けて、あからさまにホッとしてしまう。
「ん?何が?」
「あっ、なんでもないの。それより、早くやっちゃお!」
私は鞄の中から筆記用具とか紙とかを取り出して、パタパタと机の上に並べ始めた。
松田君はそんな私を、面白そうに眺めている。

「どうしたの?今日は珍しく、随分とやる気が有るみたいじゃん!」
松田君は目を細めながら、控え目にクスクスと鼻で笑っている。
「いつもやる気充分だよっ!」
「どうだか……ぶぶっ、もう駄目。ギブアップ!」
そう言うと松田君は、体をくの字に折り曲げて大爆笑し始めた。

「もぉっ!なんでそこで笑うのよ?」
「いつも思うんだけどさぁ…宮木さんの行動、面白すぎ!」
「はぁ?バカにしないでっ!」
「違う違う!そうじゃなくて…可愛いなって、思ってさ!」
「じゃぁ、なんで笑うのよっ!?」
「いや、それはね…面白くって……クックック……」
(しっ、信じらんない…)
「もぉっ!やっぱりバカにしてるんじゃないっ!」


少しして笑いが収まった松田君は、今は黙々と作業を進めている。それこそ面白い程に、仕事がどんどん片付けられて行く。
でも私は、目の前の作業になかなか集中することが出来ない。
だって、いつ光輝君が通るかと思ったら、なんだかまた怖くなって来ちゃって…

「廊下…そんなに気になる?」
急に松田君が、視線を手元に落としたままで口を開く。
「ぇ?」
「さっきからずっと…恐る恐る見てるよね?」
(バレてたんだ…)
「そ、そんなことは…」
否定しようとする私を牽制するかの様に、松田君が視線だけをこちらへ向ける。そして、静かに言い放った。
「宮木さん…手が震えてるよ?」
(あ…)
指摘されて初めて気が付いた。シャーペンを持つ手が、小刻みに震えている。

「あはっ、バ、バレちゃった!?松田君って、鋭いね〜!さっすがSクラス!我が校のエリートは違うねっ!」
私は精一杯、明るく振る舞った。止まらない震えを隠す為に…
「……って、私が分かりやすいだけなのかな?おまけに、単純で鈍感!よく光輝君にも、ガキだガキだ〜って言われるし!ホント、私って子供だよね?嫌になっちゃう……」

「無理…しなくて良いよ……」
私の言葉を静かに聞いていた松田君が、瞳を曇らせて小さく呟く。
「え?」
「全部分かってるから…無理…しないで?」
「な、なんのこと?」
「光輝のことだよ。光輝なんか…好きでいるの、やめちゃえば良い」
「え、えっとぉ…そ、そうだよね?でも……」
(それが出来たら…こんなに悩んでないよ……)

「俺は光輝が嫌いだ。宮木さんにこんな顔させて…いつまでも余裕ぶってる光輝が、はっきり言ってものすごく憎いよ」
(わ、たし…今、どんな顔…してるの?)
松田君の声のトーンに、ただならぬ空気を感じる。


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