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「とある日の保健室」
【学園物 恋愛小説】

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「とある日の保健室その2」-1

「君が好きだ。俺と付き合って欲しい」
春も間近な寒い日の事だ。俺、橘達也は確かにそう言った。所謂、告白。
彼女は何も言ってくれない。ただ顔を俯けているだけだ。
「あのさ……」
俺が話しかけようとした瞬間、
「ごめんなさい!」
彼女は俺の言葉を遮り、謝った。
そして、俺は悟った。
俺は……振られたんだ、と。
「本当に……ごめんなさい。それじゃ……」
彼女が去ってしまう。だが、俺にそれを止める力など、有る筈もない。 呆然として、行き場の失った手を眺めていた。
中学生活ももうすぐ終わろうとしていた、冬の日の出来事。
このあと、俺は地獄を見る事になる。



翌日の事だ。
俺は自分のクラス、3年2組の教室に入った。
「よっす」
いつもの挨拶を仲のいい級友と交わそうとしたのだが、そいつは、
「……あれ」
と黒板を親指で指差した。
いつも見る黒板なのだが、今日の黒板は落書きだらけ。真ん中にでかでかと文字が綴られ、その周りを細かな文字が囲んでいた。
真ん中には『自惚れ野郎 橘達也』と書かれている。その周りの細かな文字は、
『死ね』、
『自分のルックス分かってんのか?』、
『高嶺の花すぎるにもほどがあるだろ!』、などといった、誹謗中傷文であった。
「何だ、これ……?」
俺は驚きに目を見開いた。
何故、俺の事が……?
「橘、お前の昨日の告白、覗き見していた奴らがいたらしい。そいつらがキレて、こんな嫌がらせをしたみたいなんだ」
親しい友人、略して親友であるこいつ、黒田誠が俺に、周りには聞こえないように教えてくれた。言動から察するに、こいつは関わっていないのだろう。俺の味方みたいだ。
そんな味方を、俺は傷つけたくなかった。だから言った。
「俺と親しげにしてると、お前まで目をつけられるぞ。騒ぎが鎮静化するまで、俺に関わらないほうがいい」
もちろん、周りには聞こえないように。
「……お前は一度決めたら、最後まで貫き通すからな……分かったよ。たがな、無茶はするなよ」
「ああ、分かってるよ」
聞き終わるなり、黒田は自分の席に向かった。
周りからはひそひそ声が聞こえる。
「黒田は味方しないみたいだな……」
「遂に親友にも見捨てられたか」
「自惚れ野郎にはちょうどいいぜ」
特に気にはしない。少なくとも、1人は味方がいるのだから。
むしろ気になるのは、俺が昨日、告白して振られた彼女、竹下瑞貴だ。横目で覗けば、彼女は席に着いて顔を俯けている。表情は暗い。
(俺のせい……だよな)
かなり罪悪感を感じた。せめて告白さえしていなければ……とも思う。
今更、声をかけられるわけもない。なのに、俺は思ってしまう。慰めたい、と。
だが、すぐに必要ないと分かった。 周りの女子たちが、竹下の事を慰めている。彼女らは、きっと知っているのだろう。
(……さて)
机に向かう。
最早、呆れるレベルだ。そこにも落書きの数々。
(ご苦労様……)
よくもまあ、ここまでやろうと思ったものだ。かろうじて助かったのは、教科書類には手をつけてないってところか。それでも困るが。
ただ一つ、推測ではあるが、俺の脳裏を過ぎったものがある。
覗き見していた奴らは、竹下に惚れていたのではないか。
抜け駆けなんかするなよ、という、暗黙の掟があったのではないか。
俺はそんな奴らの事は(当然だが)知らないし、抜け駆けしたつもりもない。だが、奴らにとって、俺の行動は気に入らなかったのだろう。だからこんな嫌がらせを……。
(気に入らないなら、俺に直接言えっての……)
俺は朝から冷たい水に触れるはめになってしまった。冬の季節なのだから、冷たさも倍増というものだ。


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